《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第67話
六月二十一日(金)
トラ急電鉄の職員であるシマエナガに似た女性が続ける。
「トキさん、続けてよろしいですか。
新百合ヶ丘駅には、お越しになったことありますか。新百合ヶ丘駅はトラ急小田原線のほかにトラ急多摩線も接続しています。今回の新ターミナル駅の構想も新百合ヶ丘駅のような構造を目指していまして、そうです。
ホームが三つ必要になるんです。それに加えてホームにそれぞれ二本の線路が必要になり、最低でも六本の線路が並ぶスペースが必要になります。今のカピバラ駅にはそのような用地はございませんし、目的は二十年前に本来開発すべきだったことへの精算です。そのように関係者のみなさんが動いている中で、それをこの案で妨げるつもりはありません。」
「トキさん、二つ目になるのですが、そうです。電車は急に曲がれないということです。
トキさん、軽トラと大型トラックだったらどちらの方がハンドルを切りやすいですか。そうです。
軽トラですよね。簡単すぎる質問をしてすみません。軽トラだと曲がる際のカーブの大きさが大体半径4m程度です。トラックになると最低でも6mぐらい必要になります。電車はどうだと思いますか。そうです。
もっと大きくて400mも必要になるんです。
トキさんの広大な土地であれば、その半径400mの大きな曲線を描くことができるんです。」
「トキさん、最後になります。もう少し聞いてください。
軽トラでアクセルをベタ踏みで上がる坂ってそこに分度器を当てたら何度だと思いますか。そうです。
大体20度くらいになります。三角定規の一番鋭い角度が30度ですからその三分の二程度になります。それでも登っていると急に感じるものです。次に電車ではどうでしょう。軽トラはタイヤというゴムとアスファルトという石油由来の粘り気のある表面の摩擦がありますが、電車は金属と金属です。ツルツル滑りますよね。そうです。
たったの2度しかないんです。
私たちは、トラ急カピバラ線を地下鉄とする予定でいます。最近できた地下鉄だと相鉄線の西谷駅から新横浜駅を結ぶ線路のように深いものを考えています。新横浜駅で降りたことありますか。笑っちゃうくらいエスカレーターで地上に上がらないと行けないですよね。あんな感じです。
深さはトンネルの天井の位置で地下40mを想定しています。そこまで電車が下るには、20度ですよ。ちょっとずつちょっとずつ降りていくと、その長さは1.5kmも必要になるんです。」
「トキさん。
トキさんのお持ちの広大な土地であれば、
半径400mの大きな曲線を描きながら、
1.5kmの緩やかな傾斜を作ることができるんです。」
「長く喋りました。ご不明な点はないですか。」
と、口角を上げて顔を傾けて聞いてくれた。やっぱりシマエナガだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?