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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第80話
八月二十日(火)
「トキさんは、露天風呂の水や、今こうやってプランターを洗った後の水がどこに流れていくか分かりますか。」と、ラクダが聞いてきたので、カピバラ市の南西にある終末処理場だと答えた。
「そうです。カピパラ台地を西に一山越えた先の平地です。では、どうやってそこまで流していると思いますか。」
確かにそう聞かれるとわからない。自然に流そうにもイグアナ地区と終末処理場は高低差があまりないし、台地を迂回して流すのは距離が長くて難しそうだ。かといって直線距離で流すにはカピバラ台地が邪魔になりそうだ。答えに困っていると、ラクダは続けた。
「カピバラ台地を迂回して汚水管が深くなってしまったら、途中でポンプを使って汲み上げて流しているんです。」
ポンプと言われて、ぬるま湯が湧いた時のことを思い出した。あのポンプは確か小型の発電機から電力を受けて動いていたはずだ。
「ですので、これから環境対策課としての意見を述べさせてください。」
い、いまからか。ど、どうぞ。
「あまり想像したくはないですが、カピバラ市に大震災といったどうすることもできないことが起き、それによって停電が起きた場合。
そして、それが長期化してしまいポンプの補助電源が切れた場合。
そして、ポンプを動かすための発電機の軽油が届かなくなってしまった場合。
そして、バキュームカーも来れない状況になってしまった場合。
あくまで、とても小さな可能性の話です。
下水道は管の勾配で自然に流れる仕組みですから、ポンプ場のあたりの低い箇所一帯は、汚水まみれになってしまいます。」
うん。あまり想像したくない。汚水の湯が湧いているなんて想像したくない。
「そうなると、いざ復興が開始されても、一度汚染された土地は、もう取り返しがつかない土地になってしまうかもしれない。
ですから、カピバラ市役所の環境対策課の一職員として申し上げます。
どうかその可能性をなくすためにも、カピバラ台地の東側、このイグアナ地区に排水処理施設をつくらせてくれませんか。」
そう言うとラクダは立ち上がり、深々と頭を下げてこう言った。
「トキさん、このようなことになって。そして、このようなことを言って、申し訳ありません。」
これも仕事とはいえ、ラクダの気持ちを考えると、私もつらくなってきてしまった。
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