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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第7話

三月二十一日(木)

 250万円はイニシャルコストだったらしい。

 ボコボコとぬるま湯が湧き出る限り、その処理のランニングコストがかかる。その内訳はぬるま湯を中和する炭酸ガス代と装置自体の電気代だ。年間50万円近くかかるらしい。他にもこの区画が埋まるくらい大掛かりな水槽を用意して、酸性の錠剤を混ぜる方法もあった。そちらの方がランニングコストはかからないが、急ぎということでジンベエザメはこの方法をとった。

 取り壊す前のアパートは築四十年のボロアパートで部屋は四室だったが一世帯しか入居しておらず、家賃収入がアパートを所有していることに対する税金へと消えていくようなものだった。いつかは見切りをつけなければと思い、解体したが思わぬマイナスだ。

 これからは更地を所有していることに対する税金と、年間50万円の処理代がかかる。今は水質成分分析の結果が分かるまで側溝に流させてもらっているが、下水道に流すとなったらその使用料もかかる。ホームページで確認したがこの水量だと毎月140万円、年間1500万円となるらしい。なんだか中和処理代が安く思えてきた。土地を売却するのが元の計画だが、処理に困るぬるま湯がとめどなく溢れ出てくる土地を誰が買うのだろう。

 「止める工法はない。」と、ジンベエザメは教えてくれた。

 井戸のように水面が地下水位と同等のものであれば塞ぐことができるが、地下水位の更に更に下の岩盤の更に下から湧き出ているのであろう地下水を押し戻す方法は無いと言われた。穴の周りを高く盛っても結局は溢れ出る。どこまで高くすれば止まるのか見当も付かないようで、いっそのことぬるま湯と高さ比べでもしてやろうかとも思うが、そんな盛土をする大量の土のアテもない。

 盛土といえばジンベエザメが教えてくれたが、ここの表面の土は玉石まじりで、どうやらアパートを建設する際に運んできた土が粗悪だったのではないかという。今まで買い手がついてなかったのは、このゴロゴロとした玉石のせいだろうという。仮にぬるま湯が止まっても、売るには玉石の処理が必要で、300万円はゆうにかかるだろうと言われた。

 地盤の調査を勧めてきたモグラとスナックでとことん話したい。
 もちろん飲み代はモグラの奢りだ。

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