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連載小説「戊辰鳥 後を濁さず」

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土木業界を離れることとなったため、今までの仕事の経験をもとに初めて小説を書きました。 全85話で完結。約55000字となりました。街から文学が生まれるのではなく、街づくり文学を目…
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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第1話

あらすじ 戊辰鳥 後を濁さず ―つちのえたつとり あとをにごさず― 第一部「釜場」 三月十五日(金)  農家であり地主であるトキ家の跡取り娘として生まれた私は、二十歳の時、祖父の養子となり、祖父からボロアパートを一棟譲り受けた。  表向きはトキ家の血を絶やさないためとなっているが、実際は広大な土地を持つ祖父から相続を受けるためである。  医師が祖父に宣告したおおよそ三年後までに私は相続税として多額のキャッシュを用意しなければならない。そのため、ボロアパートを解体し、そ

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第17話

三月三十一日(日) 「もし温泉だったら、工事費2億円が浮くくらいの大当たりじゃね。」  いつもいっつも肯定してくれる、サッカー少年団からの付き合いのビーバーと、隣町である平塚市のスーパー銭湯に来た。 「湘南天然温泉 敷地内地下1500mから湧出する源泉は、化石海水に分類されます。」  と、湯上がりに廊下の壁に貼られたポスターを見て、すぐさまスマホで温泉掘削工事の地下1500mまで掘った際の施工金額を調べたビーバーは、その金額を言ってくれた。  ビーバーは小学生の頃か

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第58話

五月十三日(月)  轟轟とあたり一面、水の流れる音を感じる。  用水の入水時期のイグアナ地区は、どこかひんやりとしている。  私は、この空気が好きだ。  これだけの量の清流があたりを流れるそのエネルギーを感じるし、この空気の張った感じが、身を引き締めてくれる気がする。  これだけの水量だ。塩分なんて洗い流してくれる。 「お! やっぱりトキだ。名前を調べてきたが、やっぱりトキだったんだな!」  クロヒョウだった。昨シーズンの試合前のイベントで見かけて、少し話したぶりだ。

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第63話

六月十日(月)  どっかで見たことあるぞ。と、思ったら長崎の画像だった。  今日はクロヒョウがやってきて、「トキ、先日は同意してくれてありがとう。」と感謝を述べにきてくれた。  あれからクロヒョウは、アロワーナ内部で話を進め、市役所に概略の説明をしに行く段階となったことを伝えてくれた。その時、見せるつもりの資料がこちらで、これでよければ市役所に提出したいということだった。  画像参照元は、長崎スタジアムシティの画像である。これは、長崎を本拠地とするJ2クラブ、V・ファー

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第68話

六月二十一日(金) 「トキさん、すみません。長々とこちらの考えるメリットの部分だけ話してしまって。  結論を申し上げていませんでした。  このターミナルを起点とした線路は、東海道新幹線とJR相模線の新駅である倉見駅を目指します。そして倉見駅を通過して湘南台駅へと接続します。湘南台駅はトラ急江ノ島線。相鉄いずみ野線、横浜市営地下鉄ブルーラインが接続する駅です。そのため、今日はこれだけの人数で伺っております。トキさんはトラ急線のみが関係しますので、今後は私のみが伺うことになると

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第81話

八月二十六日(月)  クロヒョウが「調査費用を調達できた!」と、嬉しそうにやってきた。  だが私は、最近のことを整理したかった。  なので、「田んぼのあたりを歩かないか。」と、クロヒョウを誘った。   稲は所々黄色に染まり、収穫の段階へ移りつつあることを告げている。  もたげだした穂先が風にゆれ、キラキラと西日に輝いている。  洗いざらい話をした。  下水排水費用で、資金がそろそろマイナスへと転じること。  それを補填するには、新ターミナル駅構想に同意し、土地を売る