スタートアップのお金の集め方②
株主構成を間違えたら潰れるしかない
冒頭のタイトルとしては中々ショッキングなものではあるけれど、実はこれあるVCの人から直接聞いた言葉だったりする。たまたま5人のVCから話を聞く機会があってそれをこういう記事にまとめているんだけれど、話を聞いた中でも1,2を争うぐらいに印象に残ったセリフだった。
ただ同じようなことを他のVCも口を揃えたように言っていたから、多分本当のことなのだと思う。彼らは何回も会社が潰れる瞬間に立ち会わせているし、どうやってスタートアップが潰れるのかという話はとてもリアルで何より真に迫っていた。
つまるところ株主構成というのはすなわち意思決定権の分配であり、それを一体だれがどのぐらいの割合で握っているのかが会社の未来を左右することになるという理解を個人的にはしている。ただとても厄介なことに、この株主構成はスタートアップの立ち上げ当初に決まってしまう。会社としての体を成す前に将来を左右する程大切なことが決まってしまうというのはなんとも難しい。
金の切れ目が縁の切れ目
スタートアップの立ち上げ当初の資金を友人や親族に出しもらうことも選択肢としては当然有り得る。親戚に前澤っておじさんがいてかなり資産家らしい。起業の話をしたら10億円出資してくれうことになった。みたいなケースである。
そしてこれは全くVCと同じことが起こり得る。10億出すからそのリターンとして株をよこせというわけだ。お金を出資してもらうわけだから、もちろんなんらかのリターンは必要だしそれを株でというのはとても自然な流れである。
しかしここで問題なのは出資してくれる相手が妙に自分と距離の近い親戚のおじさんであるという事実だ。実際に10億円を投資してもらった後に何が起こるだろうか。そうVCよりもずっと気軽にずかずかと経営に口を出しくる可能性が非常に高い。それなりのお金を貸しているのだから、貸している先の状況が気にならないわけがない。
でも別にお金を貸してくれる親族や友人は経営のプロではないし、VCのように出資の経験が豊富でもない。しかも、社員ではないからお金以外の貢献は基本的には何もしてくれない。そういう人が会社の経営だけに、さも当たり前という顔で口を出してくる。結果は火をみるより明らかである。
エンジェルは本当にエンジェルか
銀行はお金を貸してくれない。立ち上げ当初でVCにも出資を渋られている。親族や友人は皆貧乏。そこで登場するのがエンジェル投資家という存在である。エンジェル投資家は立ち上げ当初のスタートアップにお金を投資してくれる裕福な個人投資家で、シビアにリターンを得ることではなくて、社会的に意義のある会社にお金を投資する奉仕活動的な意味合いが強い。だから、設立まもないリスクの高いスタートアップであってもお金を貸してくれたりする。
ただし、エンジェル投資家も投資家という名のつく通り、投資に対して株を求める。決して寄付ではなく立派な投資活動の一つである。そして株を求めるということは、意思決定の一部を渡すこと、つまりVCや前澤おじさんと全く構造は変わらない。
だからエンジェル投資家と名乗る人物からの投資には気をつけなければならない。お金を貸して、がっつり経営に口を出してくる可能性が全くゼロではないからだ。どうしてエンジェルと名がついているのかと言えば、それは個人的に裕福でありそこまでリターンを得る必要のない人物が、VCだと出資できないような高リスクのスタートアップに出資してくれるからであり、そういうスタートアップからすればまさにエンジェルなのだ。
お金だけ貸してくれてあとはすべて好きにさせてくれる素敵な存在では一切ないから、本当にそのエンジェル投資家が信頼できるのか吟味しないとあとが怖い。
クラウドファウンディングは安全か
クラウドファウンディングという手段も存在する。クラウドファウンディングにも色々な形があるけれど、思い浮かべやすいのは製品の構想段階で資金を集めてその資金で製品を製造して出資者に還元する形だと思う。
これは別に株を渡していないから安全であるような気もしなくはない。この場合の出資者は会社の意思決定に口を出してくるわけでないからだ。でも、少しだけ落とし穴がある。やや蛇足感はあるけれど付け加えておく。
クラウドファウンディングで製品の資金を募る場合、基本的に目標額が集まってしまうとその製品を作って出資者まで届けなければならない。ただよくよく考えてみると、構想段階の製品がローンチ後に出資者以外に本当に売れると誰が言い切れるのだろうか。
つまりクラウドファウンディングで出資してくれる人々というのは間違いなくアーリーアダプターであって、それは要するにキャズムを超えていない状態である。しかし、クラウドファウンディングの場合、キャズムを超える前に一定数のアーリーアダプターを集めてしまうため、その製品需要に応えるためにある程度の生産ラインの確保などの投資が必要になってしまう。
その規模の生産ラインを稼働させて製品を作ったまでは良くても、それ以降も同じ規模で今度はアーリーマジョリティではない人々にキャズムを超えて売れてくれなければ、設備投資を回収できずに潰れてしまう。
これがクラウドファウンディングの主な落とし穴である。株主構成うんちゃらという流れからは外れるけれど、覚えておいても損はないかもしれない。
共同経営者の罠
最後に株主として共同経営者の話を忘れてはならない。一人だけで起業する場合もあるけれど、それよりも友人などと共同で起業するケースの方が世の中的には多いのではないだろうか。そして一緒に経営するということは要するにその経営者の一人一人が一定の株を持つことを意味する。そして創業時からの共同経営者は必然的にその割合が大きくなる。
その創業者たちが最初から最後までその会社にいてくれればそれで問題がない。でも、本当にそんなことが可能だろうか。いやそんなことは決してない。音楽性の違いで別れるバンドが星の数ほどあるように、方向性の違いで株式を持つ創業者メンバーが会社をやめてしまうことだって当然のようにある。
この場合、すでに会社をやめてしまったメンバーが大量の株式をもっているという、ややいびつな構造になってしまう。そしてこれは他の投資家、主にVCがその後の出資を渋る一因となり得る。だってこれから出資しようという会社に、そんなよくわからない意思決定権の一部を持つヤツがいたら嫌だろう。
見落としがちだけれどこれはかなりの確率で起こり得る事態で、創業時に確実にヘッジしておかなければいけないリスクとなる。具体的には会社をやめるときには、持っている株式を全てその会社に売り渡すというような契約を創業者間で結ぶことになる。
おわりに
冒頭にも書いた通りこれ現役VC5人から聞いた話を簡単にまとめたものとなる。これを聞く前は正直、銀行というネジ工場の社長的な構造でしか企業のお金の集め方を知らなかったから、かなり面白かった。
まだ自分は起業をしてはいないけれど、聞いていて起業というのも面白いと思うようになった。素晴らしいアイデアとか、明確なビジョンがあってとかではなく、お金の集め方だけ異様に詳しくなったからという少しいびつな興味ではあるけれど。
これから起業しようと思っている人や、すでに起業している人だったりの参考に少しでもなれば嬉しい限りである。
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