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IT系のお兄さんと書き物

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読んだ小説、観た映画などについて、ふと考えたこと、あとたまに創作をまとめています。ここだけは特にテーマを設けずに自由に書いています。書いている本人が実は一番楽しいのかもしれません。
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#読書

彼女はいつも暖かい

こんな時だからなんでもない話(創作)をショートショート風に。少しでも不安を忘れられるような時間を作ることができれば幸いです。 朝目覚めるといつも彼女は僕に巻き付くように寝ている。完全に抱き枕状態だ。最近少しだけ太ってしまった彼女の少しむくんだ、でもとても幸せそうな寝顔を見つめていると不思議と微笑んでしまう。 今年の冬はいつもよりは暖かかったけれど、それでも気温がマイナス近くになることもあったし、なんだかんだ言っても寒い。そういえば、少し前に出会った友人は寒い寒いと言いなが

抱擁、あるいはライスには塩を 江國香織

細雪が好きでその話をしていたら、ある友人が「江國香織が細雪を書いたらこうなる」というコメント付きでこの本を勧めてくれた。高校生の頃に江國さんの本を読んでそれからずっと自分の中では不倫小説の人という失礼極まりない(本当にごめんなさい...)認識をしていたから、むしろ興味が湧いて手に取った。 結局誰かは不倫はしているんだけれども、というか不倫のスケールはむしろ上がっているんだけれども、それが物語の中心にはなっていないところが昔読んだ江國さんの本たちとは違っていて、個人的にはとて

われはロボット アイザックアシモフ

われはロボット 1950年 アイザックアシモフ とても1950年に書かれたとは思えないのは、きっと普遍的な内容を語っているからなのかもしれない。ただ普遍的とは言ってもここで描かれているのは人間の感情だったりそういう類の普遍性ではなくて、プログラムにおける完璧なロジックの不完全さという、ややマニアックなものではあるけれど。 ロボット工学三原則 1.人間を傷つけてはならない 2.人間の命令に従わなければならない 3.前2条に反しない限り、自分の身を守らなければならない 物語

哲学な日々 野矢茂樹

哲学な日々 考えさせない時代に抗して 野矢茂樹 2015年 講談社 哲学は体育に似ているという言葉で哲学を語ってしまうのだから、哲学の本を読むぞという肩肘を張って本を開いた人にとっては肩透かしもいいところかもしれない。 野矢先生はとても平易な言葉で、しかし本質的な問いに対してあれこれ言いながら解き明かす、その過程を見せてくれる。それを読んでいると哲学というのは確かに体育というか実技科目であるなぁと納得してしまう。 この本のそれぞれの章は新聞に連載したエッセイということも

渚にて ネビルシュート

渚にて 1957年 ネビルシュート 終わりが確定した世界で出会う平穏 未来は基本的に不確定だから人は不安になるし、またその不確定を少しでも確定したものにするために努力するものだと思う。でも仮に必ず人間の世界が数ヶ月後に終わるという未来が確定した世界では何が起こるか。 この壮大な仮定に対してこの本が描く世界は決してパニック映画さながらの混乱ではなくて、多少の混乱はありながらも驚くほど平穏に生活する人々の姿で、それはパニック映画よりもずっとリアルな世界観だった。未来への期待や