見出し画像

森見登美彦 著「夜行」考察その4

前回が長くなってしまったので二つに分けることにしました。

今回は、タイトルにもなっている「夜行」版画シリーズについて考えます。

注意:これより下には小説「夜行」のネタバレがあります。

夜行遭遇とは?

「夜行遭遇」は夜行の銅版画をみて、手を振るような女性が見えてしまうことです。誰が見てもそのようにはならず、岸田さん曰く「夜の世界」を胸に秘めているような人は神隠しに遭いやすい。本考察ではこれを言った時点で岸田さんは鬼に憑かれているので、そういう人が鬼から見えやすいという意味でしょうか。手を振っていると見えた5名は、闇持ちと思われます。

・中井/ホテルマン:妻が鬼に憑かれる
・武田:美弥さんは先輩の彼女
・藤村:佳奈さんというイマジナリーフレンドを子供時代に抹殺した
・児島:藤村さんは同僚の妻
・田辺:すでにハセガワに憑かれていた

児島さんんは何を見たか言いませんが、児島さんを喰った家に藤村さんがいたので藤村さんに惹かれていたのだろうと思います。ただ、人って大なり小なり闇ってあるんじゃないか、そういう意味では誰がいつ手を振られてもおかしくないんじゃないか、という怖さがあります。

ここで女性を見てもすぐには引き込まれません。これは「銅版画は窓であり、出入り口ではない」ということだと思います。

夜行変換とは?夜行版画シリーズとは?

本考察の中では、夜行遭遇後、その作品の場所にいく前後で奇怪な現象が起こり、別世界へと連れ去られることを「夜行変換」といいます。本人は夢を見ているような感じで記憶障害や判断力低下も発生します。元の世界にいた人からすると失踪したように思われます。

総じて考えると

考察4:夜行版画の女性は魔境にいるハセガワであり、魔境側から夜行世界の人と目が合うことでロックオンされ(夜行遭遇)、魔境側の世界へ連れていかれる(夜行変換)

ハセガワの側から見ると、夜行の版画から別世界を見るのは夜行列車の窓から外を覗くような感じです。そこに闇を抱えた人がいると目を合わせ、手を振って「ヲイデ、コッチニヲイデヨ」となるようです。その人を連れ込むのは停車駅、あるいは夜行世界の闇の穴で、そこに手を振った人が来ると魔境に引き込まれます。

岸田さんの暗室からつながっている先が闇の穴で、そこを題材に版画が作成されているため、必然的に作品の場所に行くと夜行変換が発生すると考えるのが筋かなと。曙光世界には暗室がないので、長谷川さんといっしょに闇の穴スポット巡りをして制作したようです。

考察5:夜行シリーズの題材は魔境と世界をつなぐ闇の穴。作品の光景を見つけるということは闇の穴に近づいたということで、そこにはハセガワが待っている。そして夜行変換が起こる

今回のまとめ

この考察を始めたのは、この夜行の版画をめぐって起こる一連の現象に一貫性がなく感じられ、何が起こっているかヨクワカランとなったのが発端です。いったんじっくりまとめると、私なりの考察ができました。

・夜行版画シリーズは、魔境から夜行世界を覗く窓
・窓の外に闇を抱えた人が見えると、ハセガワが手を振り顔を覚える
・見覚えのある人が闇の穴・作品のモデルとなっている場所へ近づくと、ハセガワが迎えに行く

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?