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森見登美彦 著「夜行」考察その5(最終回・まとめ)


最終回までお付き合いしていただいてありがとうございます。

「夜行」の、特に版画をめぐる謎について考察をしました。おもに「夜行世界」です。「曙光世界」については深追いしていません。みんな幸せそうで、「成就した恋ほど語るに値しないものはない」という感じがしました。否、時間がないんです。

それから、第2夜 奥飛騨はあまり考察の対象になっていません。あちこちに怖い要素がある作品ですが、特にこの第2夜が私には怖くて、あまり読み返せないんです。シソウの話とか考えたいトピックはあるのですが、このへんで今回の仮説・考察と矛盾してしまうことがあるかもしれません。私の恐怖耐性のゲンカイです。

注意:これより下には小説「夜行」のネタバレがあります。

今回はまとめということで、これまでの4回で考えた内容を一覧にまとめます。

定義したこと

版画周りの現象は頻繁に取り上げるので、簡単のため以下を定義しました

定義1:夜行遭遇 版画「夜行」を見て、「こちらに手を振っている」人が見えること
定義2:夜行変換 夜行遭遇の後その景色の近くで失踪すること(他人視点)あるいは夢のような闇のような世界へ入ること(本人視点)

仮定したこと

本作品から直接そうなっているのかはわからないけれども、現象を説明するために私なりに「そうだったらいいな」という仮説を立てました

仮説1:ホテルマンは別の世界(夜行世界*)から来た中井さん
仮説2:夜行世界は多数存在する。曙光世界はただ一つ存在する
仮説3:夜行世界の間には魔境がある
仮説4:鬼(魔、魔物のようなもの)に、ホテルマンと中井さんの妻は憑かれた
仮説5:10年前、長谷川さんと一緒にいた大橋さんは鞍馬の闇の穴に触れて魔境に取り込まれた

考察したこと

仮説と本作品を元に導出した、こんなことが起こっていたのではないか、パターンがあったのでは、という考察

考察1:長谷川さんは魔境の鬼に憑かれていた(魔としての長谷川さんをハセガワと記述)
考察2:13年前の時点で、夜行世界と曙光世界の区別が起こった
考察3:10年前、岸田さんが鬼の誘導で版画シリーズを作り出す。夜行世界の長谷川さんは、ハセガワが魔境(岸田さん家の暗室に象徴される)に戻ると共に失踪
考察4:夜行版画の女性は魔境にいるハセガワであり、魔境側から夜行世界の人と目が合うことでロックオンされ(夜行遭遇)、魔境側の世界へ連れていかれる(夜行変換)
考察5:夜行シリーズの題材は魔境と世界をつなぐ闇の穴。作品の光景を見つけるということは闇の穴に近づいたということで、そこにはハセガワが待っている。そして夜行変換が起こる

以上、一連の怪奇現象が表面的にはある程度説明できるかと思います。もちろん鬼がどこからきたのか、魔境にさらわれたら喰われるのか、など、わからないことはあります。ただ、現象として書いてあったことのつながりが分からない、恐怖というより不満はある程度解消されました。いろいろな人の抱える「夜」や時間軸の移動が次々に目の前を過ぎていき、私の理解力をはるか超えてしまったのだと思います。

最後に

4日前にこの本を手にして翌日読み終わったときのナニガナンダカワカラナイ状態からは抜け出せたと思います。この本をどんどん読んでいって、何かに囚われるのも怖いので、ここでいったん終わりにします。

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