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森見登美彦 著「夜行」考察その3

前回はいくつかの仮説を立てて、それがあればこの作品中の出来事のつながりがある程度わかるのではということで、いくつか主要な人物・出来事について考察をします。

まずはこの話の中心的な失踪について。あとは鬼(あるいは魔)に憑かれたのが誰と私が考えるかについて考えます。

作品中では直接述べられていないけれども、いろいろな事象をつなげるために必要とは判断して私が仮説を勝手に立てています。いろいろな解釈があると思いますので、「ここ矛盾している」とか「これは都合よすぎる」とか思われる方へは「スイマセン、もっと勉強します」

編集:2020/09/02 10年前の大橋さんの考察が途中で終わっていたので、仮説として書き直しました。

注意:これより下には小説「夜行」のネタバレがあります。

長谷川さんについて

今回の話で謎の中心にいたと思われる長谷川さん。私の解釈としては、長谷川さんは鬼に憑かれていたものと考えます。ここの鬼は、魔・魔物・人間を超える何か、といったところです。

考察1:長谷川さんは魔境の鬼に憑かれていた
長谷川さんと鬼を区別するため、長谷川さんに憑いた鬼を特に言いたいときにはハセガワと以降書きます

ハセガワの言葉とマフラーなどが、時空を超えてつながってしまっています。時間も超えて、同時に存在するような気もしてきます。怖いです。さすが鬼です。

1.13年前の尾道の美術館にいた長谷川さん
  赤いマフラーとぬいぐるみ。曰く「世界は常によるなのよ」
2.13年前の岸田の夢(自らの死、おそらく3.とリンク)
  曰く「世界は常によるなのよ」
3.7年前の暗室で田辺が暗室で存在を感じる
  曰く「世界は常によるなのよ」
4.2年前の天竜岬の女子高生
  赤いマフラーとぬいぐるみ。

長谷川さんがいつ憑かれたのか、あるいは鬼としてのみの存在だったかについてはわかりません。祖父母が何か関係しているのかと思いましたが、祖父が亡くなったのは岸田さんに尾道で会って以降、ホテルマンが引っ越す前。尾道であった時すでにハセガワはいたと思われるし、よくわかりません。ハセガワが同時に一人にしか憑けないのかも不明です。中井さんは10年前に「先輩は解決できることにしか興味ないから」と言われています。この一文から考えると、長谷川さんはハセガワに憑かれつつ、その存在を認識しているようです。

10年前に夜行世界の長谷川さんはどこへ行ったのか

長谷川さんが岸田さんに殺されたのか?ははっきりしません。以降説明するように、岸田さんも10年前の時点ですでに憑かれていたと考えるので、再会したときに岸田さんの鬼が長谷川さんの鬼を殺すとは考えづらいです。

考察2:13年前の時点で、夜行世界と曙光世界の区別が起こった
「曙光世界」の岸田さんが13年前に尾道から帰ってすぐに仕上げたので、この時点で「夜行世界」もある、と考えます。
補足:10年前に「夜行が始まった」と大橋さんは考えていますが、これは連作が始まったという意味で、世界の分裂が始まったという意味ではないと考えています。「曙光世界」の柳画廊の主人は13年前に尾道を見て自ら「曙光」と命名していますが、「夜行世界」の柳画廊では何も知らないと言っています。

ここでは世界がパラレルに分かれていくというより、この銅版画によって、夜行世界を車窓のように覗き見ることができるようになったと考えます。なので、分岐、とかではなくて区別とします。

殺人事件のようなことがあったのではなく、曙光世界・夜行世界のハセガワが岸田さんを利用してほかの夜行世界を覗く「曙光・夜行シリーズ」を作らせることにした。そして夜行世界のハセガワがその夜行を使って、魔境経由で「あらゆるところ」へ行くようになったのでは、と考えます。たぶん、ここってもっと良い解釈があると思いますが、想像力のゲンカイです。”作らせることにした”というと人的に聞こえますが、鬼レベルの意図は理解できません。

考察3:10年前、岸田さんが鬼の誘導で版画シリーズを作り出す。夜行世界の長谷川さんは、ハセガワが魔境(岸田さん家の暗室に象徴される)に戻ると共に失踪

10年前に曙光世界の大橋さんはどこへ行ったのか

曙光世界では、なぜに大橋さんが同じ日に失踪したのか?。その日はまだ尾道の版画しかないはずで、大橋さんは別に版画見ていないはずです。10年前に長谷川さんと一緒にいたのを思い出し、それから「暗室にいるような感じがする田辺さんのいうことがが分かる」と言っています。さらに当日前後の記憶にあいまいなところもあります。ここで魔境に触れったっぽいので、つまりは闇の穴に入り込んでしまい夜行世界に来たのか、など想像はできますが。。。私が読み取れる情報が少なく、これといったな理由がないので、仮説とします。夜行変換をした他の友人が曙光世界に存在することから、大橋さんが特殊なケースである可能性があります。

仮説5:10年前、長谷川さんと一緒にいた大橋さんは鞍馬の闇の穴に触れて魔境に取り込まれた
当時鞍馬の版画はないはずで、夜行変換などはできず大橋さんは曙光世界から失踪。それをきっかけに、岸田さんとハセガワが版画シリーズを作り出したのでは?と想像しています。

曙光世界と夜行世界、さらには夢の関係をもっと読み解くことができればちゃんとした考察が作れると思うのですが、読解力のゲンカイです。

誰が鬼に憑かれた?

「夜行」を見て世界に引き込まれるというのが一つの軸としてありますが、それ以外にも奇怪な出来事が起きています。総じて「鬼に憑かれる」と表現します。変身と同じことを言っていると考えてください。
鬼に憑かれるのは、鬼と目を合わせる、あるいは鬼に遭うということがきっかけになっています。憑かれたと考えるのは以下の5人

・児島さん:3年前電車の夜窓で鬼と目を合わせる
・中井さんの妻:5年前電車の夜窓で鬼(ホテルマンの妻)と目を合わせる
・田辺さん:7年前岸田さんの暗室で鬼(ハセガワ)に遭遇
・ホテルマンの妻:(想像):7年位前長谷川さんの祖父母の家に憑いていた鬼に遭遇?
・岸田さん:13年前尾道で鬼(ハセガワ)に遭遇

ホテルマンの妻は、長谷川さんの祖父母が住んでいた家に引っ越してから変化がありました。家に水の音など奇怪な現象があることから、家に憑いている鬼に遭遇したのではと。

まとめ

今回のまとめを以下に箇条書きにします。次回は「夜行」銅版画について考えます。

・夜行は鬼に遭遇して人生を狂わされる人の話
・長谷川さんが13年前の時点で鬼に憑かれていて、その年に岸田さんも憑かれる
・10年前、二人の再会がきっかけで岸田さんは版画シリーズの作成を開始、「夜行世界」の長谷川さんは魔境へ入ることで失踪
・憑かれていると思われる人はほかにも数名

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