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28になった日のこと

朝目が覚めてぼんやりとしたまま、コーヒー片手に携帯を開くと、その日は珍しく二人から連絡が来ていた。

母親と高校からの親友Sくんからのメッセージはどちらとも、"おめでとう"というもので、やっと実感する。
あぁ、今日4月9日、自分の誕生日だなと。

派手に誕生日を祝う習慣はないし、友人たちがお祝いの連絡をくれるのも、こちらからするのも思い出した時だけなので、年毎に気まぐれである。

そんな感覚からすると、今年はやたらと高校時代からの友人たちが連絡があった気がする。
おめでとうの文字と共に、なぜか自分たちの食べたケーキの写真を送ってくる人々もいて、意味わからなくて面白くて、嬉しかった。

仕事の昼休みを終えて席に戻ると、無造作に置かれたお菓子があって困惑した。
自分の誕生日を知っている人はほぼいないと思うと、送り主を割り出す難易度がなかなか高い。
と思っていたら、隣の席のTさんだった。
話はするけど素性が見えない、ちょっと面白いおじさんというイメージのTさん。今日がわたしの誕生日ということは、事前に同僚のKさんの入れ知恵があったけど、意外な人からのプレゼントは、なんだかほっこり嬉しかった。

仕事帰り、一人暮らしをして以来の習慣で、自分用にケーキを買って帰ろうと、デパ地下に寄った。せっかくなら恋人も食べるかと連絡を取ったら、ちょうど近くを通っていたそうで、合流して一緒に選んだ。ケーキは買ってくれた。
ありがとう、というと、28だもんね、と返された。

一緒に家に帰り、孤独のグルメを見ながら夜ご飯を食べ、その後先ほど買ったケーキも食べた。
美味しいねといいながら、いうか迷っていたけれど、先ほどから気になっていたことをとうとう口にする。
"Yくんにおめでとうっていってほしい。"
すると、いうよ。と返され、また黙々とケーキを食べ始めた。
想定外の言葉に困惑する。"おめでとう"と"いうよ"は2文字しか変わらない。それでもあえて言わないのは、今日いうとなにかまずいことが起きるワードだったりするのだろうか。

やや腑に落ちないままだったが、ケーキは美味しくいただいた。
お皿を片付けてしばらくしたら、恋人はおもむろに寝室に行き、小包を持ってきて、わたしに渡して、"おめでとう"と言った。
小包の中は、両手のひらにおさまるくらいの透明な六角形のケースの中に、黄色や白のドライフラワーが敷き詰められている、かわいらしい置物だった。
"これを渡すときに最初におめでとうっていいたくて。"
恋人はそう言って笑った。
 
寝る前にもう一度プレゼントのお礼を言うと、恋人はまた"おめでとう"と言い、"この後はいっぱい言う"と付け足した。
もうそろそろ今日終わるよ、とわたしがつっこむと、それでも関係なく明日以降も言うとのこと。最後までこだわりはわからないけど、あったかい1日だった。

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