デザインの模倣について、欠けている視点
先日ミネラルショーで、偶然私の Bouquet というデザインを模倣したであろうリング発見しました。ネット上などではなく、まさかデザインした当の本人が実物に出くわすというのも珍しいかもしれません 笑。
Bouquet (ブーケ) というデザインは2020年 に 花屋さんの一角を会場にお借りして開催した展示会に合わせて、せっかく花屋さんでやるのだから!と、花束をデフォルメしたデザインを作ったのが最初でした。結局修正が展示会には間に合わず、その年のクリスマスから販売し始めたのですが、このデザインがそのまま使われたリングを見つけてしまった訳です。
ジュエリーという仕事柄、周りでも模倣の話は頻繁に耳にしますし、残念ながら日本のジュエリー業界は模倣は当たり前に行われているのも実情です。大手メーカーに勤めていた方の話を聞けば、管理職のおじ様がデパートなどでPOP UP をしている小規模なブランドのDMももらってきては「これちょっとアレンジして作って」とデザイナーに指示を出すとか。
もちろん全てのメーカーさんがそういったことをしている訳ではないので、それで業界の常識を判断してはいけないのですが、そういったことが起きているのも事実なのです。ジュエリーメーカーとして、デザイナーとして恥ずかしくないのか?と思ってしまいますが、そもそも見えているモノや価値観が違うのでしょう。
なぜ模倣はいけないのか?
「模倣」については色々な意見があると思います。有名ブランドなのか、無名な企業なのか、はたまた個人なのか、規模によっても大きく変わりますね。指輪なんて本当に小さなサイズですから、その中で何かを表現しようとしたら、自分の知らないところでも、他に似ているものがあったなんてことも大いに考えられます。
では模倣は何がいけないのでしょうか?時々「法律的にNG」なんて事を聞きますが、それは本末転倒です。なぜそういった法律があるのかという本質を問わなければいけません。
1. 事業において困る人がいるか?
2. 嫌な思いをする人がいるか?
3. 意匠に対する敬意
今回のBouquet のコピーは明らかな模倣行為だと感じましたが、正直なところ私は嫌だなという感情を全く抱きませんでした。これらは MOEMI SUGIMURA というブランドの商品として売られているわけではないのです。インドの安い賃金で精巧に真似ることは難しく、何とも安っぽい出来上がりでした。これが存在することでブランド価値が下がることはありません。
国や文化によって違う”コピー” の価値観
私は仕事柄、またはプライベートでもアジア諸国によく旅をします。彼らの文化や価値観を知ると、そもそもモノづくりに対しての価値観が違うということを肌で感じるんですよね。「コピー」や「意匠権」「著作権」についてのリテラシーなんて考えていない人たちが殆ど。中国の若いクリエーターが「中国=コピー」だと思われているのが本当に恥ずかしいと言っていましたが、そんな風に意識が高い人たちはごくわずかです。
彼らにとっては「お金になること」「売れること」が大事であって、誰のデザインだったかとかそういうことは関係ないのです。それは彼らの生活や経済観念を知れば当然理解できることで、日々の生活がかかっています。バンコクに住んでいた頃、露天ではBAO BAOのバッグやCOMME des GARCONSのPLAY Tシャツが1000円以下でいられている光景が当たり前でした。ブランド側もそれを見越してマーケティングをしているはずです。
今回私が出くわした模倣品も外国人の業者でした。そうなると「日本人の当たり前」は通じません。「迷惑をかけたり嫌な思いをさせたりする可能性のある行為だ」という感覚が全く無いのです。もっと楽観的です。国境を越えたビジネスをする時に、とりわけ途上国も含めると、模倣は常に隣り合わせのリスク。それがわかった上で事業をしなければいけません。
もう一つの考え方として、商売という観点だとお金が絡んで模倣は悪いことにように捉えらえますが、昔から人々は先人の知恵を真似てアップデートして文化を形成してきました。「本歌取り」や「守 破 離」という言葉があるように、まずは真似をする事自体が当たり前であるという価値観もありますよね。
ハンドメイドにおけるコピーの勘違い
さて話を戻してなぜ模倣がいけないと言われるのか?を分解すると、 事業ににおいて困る人がいるか、嫌な思いをする人がいるか、そして意匠に対して敬意を払う価値観でした。
有名ブランドであれば、模造品が存在することは非常に困ることです。ルイヴィトンやシャネルなどのブランド品によく見られるコピー品は本当にそっくりに作られていますから、実際にそのブランドの商品だと思って定価で買う人が後を絶たないのが問題で、それだけのブランド力があるとも言い換えられますが、売り上げや信頼に直結するからです。
一方で個人の場合、特にハンドメイド作家さんの中でよく話題になる「模倣 した、された 」は有名ブランドのそれと同じでしょうか?これは利益の損失やブランドの信頼というよりも、個人的な感情の方が強いのかな?と思います。
一生懸命作った作品が、産みの苦しみが、皆さん色々あると思います。でも私がよく違和感を感じるのが、それって本当に自信を持って「オリジナル」と言えますか?ということです。模倣を訴える方の作品を見てみると、模倣されて当たり前だと感じるものが多いのも事実なんですよね。
金属やガラスを溶かして手作業で形作っていくなら、”作家性”というのは必ず表情に現れてきいます。でも既成のパーツを使用しているなら、その素材は何千何万と存在しているのだから同じデザインが出てきても全くおかしくありませんし、真似をされるリスクは最初からわかりきっている。
大手パーツ屋さんやネットで素材調達していたら、同じようなルートで仕入れをしている人は星の数ほどいます。組み合わせが同じ?色合わせが同じ?素材から形作るところから拘らなければ、真にオリジナルとは言えませんよね。
上の写真7月のイベント用の新作ですが既成パーツを使用しています。ですから、もし似たようなものが出てきたとしてもそれは仕方がないことなのですし、過去には海外のフォロワーさんがいいデザインだね!とコメントまでくれて、次の日彼女のインスタに同じデザインの作品が載ったことがありました。
作ることが楽しいからその延長線上で売ってみよう、という感覚でハンドメイド活動されている作家さんは、似たようなパーツを使っている作品をネットで検索し、似たように作ってしまいまいがちです。デザインはやっぱり慣れないと難しいですし、デザインに対する意識の高さも人それぞれ。
この模倣したされた問題、確実に言えるのは、ネット上に載せたら常にその可能性があると自覚することです。そして誰かの作品を真似て作ったものは、それすらも消費者には透けて見えるということを忘れてはいけません。
そして模倣を繰り返しているだけでは決してデザインの質は豊かになりません。技術だけでなくデザインも素晴らしいと評価される日本のモノづくりになってほしいなあと心から思います。
最後に2018年の記事ですが、ハンドメイド素材の仕入れをしていた会社員自時代の経験から、模倣について書いているので、是非合わせて読んでみてください。
今回に記事についての音声配信はこちら⬇︎
パーツの組み合わせでアクセサリーを作っている方は是非こちらも⬇︎
先日インタビューをしていただいた書籍で、子供たちに向けてのメッセージとして、デザインの模倣について最初は誰でも真似から始まるけど、お金を得るようになったら真似では「恥ずかしい」よ、というメッセージを入れました。この想いは変わりません。それはモノづくりや、誰かが生み出したデザインに対しての敬意です。
そんな話も含めて8月は子供向けのジュエリーサマースクールに登壇させていただきます。お子様だけでなく大人も聞いてもらえたら嬉しいなと思うので、ご興味ある方は是非ご参加ください!
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《 UP COMING EVENT 》
Fuligoshed 銀座店 2022.7.9 (土) ~ 7.31(日)
drama H.P.FRAMCE 日本橋高島屋 2022.8.1 (月) ~ 8.31 (水)
広島展示会 2022.8.6 (土) ~ 8.7(日)
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