本の世界で旅をする

わたしは、本を読むのが好き。主に小説を読むことが多いんだけど、旅が舞台の小説を好んで読んでいることに気づいた。これまで二つ続けて旅行にまつわるnoteを書いたけど、どうやらわたしは、「旅」というものに心惹かれるらしい。

旅、なぜ我々は旅をするのか?うまいもんが食いたいし、きれいな景色もみたいし、酒飲んでその場で大の字になって寝たい。それは当然の欲求だ。だがそれだけだろうか?何より我々は『非日常』を欲しているのだ。むろん、『非日常』なんてものはどこにも存在しない。いつもと違う場所の日常、普段見ていない他人の日常があるだけだ。だが、『何を見ても何かを思い出す』なのだ。普段喚起されていない記憶を求めて、我々は旅をする。『自分を見つめ直す』、『自分と向き合う』、どちらも俺の嫌いな言葉だが、こう言うことはできると思う。『我々は過去を取り戻すために旅をする』。  恩田陸『黒と茶の幻想 上』(講談社文庫)より

これまで読んだ、旅を舞台にした小説の中で最も気に入っている小説の一説で、わたしが旅に惹かれるようになった原点だと思う。この小説の中では、大学の同級生だった4人の男女が旅をする。大自然の中で、「美しい謎」をテーマに語り合うことを通して、それぞれの過去に踏み込んでいく、そんなお話。

わたしは小説の中でも、閉じた世界の中で繰り広げられる物語、みたいなものが好き。ミステリーで言えば、閉ざされた洋館で起きる殺人事件みたいな。そういう点で、特に恩田陸さんの小説が好き。よく考えたら、わたしが読んだ旅にまつわる小説は、恩田陸さんのものがほとんどかもしれない。旅というのも、一つの閉じた世界。現実世界であって、それでいて非日常の特別な時間だからこそ、生まれる物語がある。

ただの旅行ではなく、その時間、旅自体が意味を持つ旅、そういう「非日常」に強く心惹かれる。そんな旅を自分自身ができたら、それに越したことはないんだろうけど、なかなか難しい。旅にまつわる小説を好んで読むのは、誰かの旅を文章として読むことで、追体験したいってことなんだろうな。

もう一人、わたしの好きな作家である三浦しをんさんが、恩田陸さんの小説の解説に書いている文章で、好きなものがある。

旅が好きだ。とは言っても出不精なので、実際に旅をすることはごくごく稀だ。計画だけはいろいろ立ててみるのだが、結局ほとんどの日を、自分の部屋で本を読みながらすごしてしまう。本に描かれる風景のなかを、登場人物と一緒に旅する。つまり私は、「旅が好き」なのではなく、「脳内旅行が好き」なのだった。  恩田陸『クレオパトラの夢』(双葉文庫)-解説 三浦しをん- より

この文章に、ものすごく共感した。わたしもまさにこの、「脳内旅行が好き」なんだ。これまでは、もっと自分でも旅に出たい、旅に出なければと思っていた。でも実際わたしも出不精で、なかなか旅に出られずにいた。もちろん、自分で旅に出てこそ、出会える世界や体験があるから、それが一番いいのはわかっている。だけど、出不精のわたしでも、読書を通して「脳内旅行」ができるんだって思ったら、なんか楽しくなってきた。

これもひとつの、旅の形なんじゃないかな。広い意味で言えば、読書自体が本の世界への旅だと思う。本を読むことで、物語の世界へ旅立ったり、物語の登場人物と一緒に旅を楽しむことかできる。これからも、たくさん本を読んで、本の世界で旅をしたい。


読んでくださって、ありがとうございました。



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