【CTO of the Year記念リレー】 全国の物流拠点をまたぐ情報連携への挑戦
こんにちは。アセンドのリードプロダクトエンジニアの松本(@moeka__c)です。
先日開催された「Startup CTO of the year 2024」にて弊社CTOの丹羽(@niwa_takeru)がオーディエンス賞を受賞しました!物流業界への挑戦に共感し、応援してくださった皆様に心より感謝申し上げます。
この受賞を記して、丹羽が語ったピッチ内容をさらに深掘りし、私たちが目指しているプロダクトの挑戦や試行錯誤を皆様にお伝えするために、リレー形式で記事をお届けしています。
前回は、丹羽より「標準データモデルの追求とノーコードでの対処」について詳しく解説しました。
いよいよ最終回となる第9弾では、「エンタープライズ対応 営業所間の連携を実現」をテーマにお送りします。
これはロジックスが目指す最終的なチャレンジである、日本全国を結ぶデジタル物流ネットワーク構築への最初のステップです。いち運送事業社内の業務効率化を超え、全国の事業所・拠点をまたぐ情報連携によりさらなる物流効率化を実現する。この課題に私達がどのように立ち向かっているのか、そして今後どのような発展を見据えているのか。拙筆ながら、その一端でもお伝えできれば幸いです。
運送事業における、営業所間で必要なコミュニケーションを支える
荷主からの依頼によって、指定した場所から場所へ、指定した時間内に、品質が保たれる適切な方法で、安全に荷物が運ばれる現在の日本の物流網。
これは、全国各地の運送会社や営業所、そして多くのドライバーやスタッフの連携で成り立っています。
今回開発した営業所間連携機能は全国に複数の営業拠点を持つ比較的大きな運送企業様に向けた機能ですが、そもそもこのような企業において、営業所間でどのようなコミュニケーションが行われているのでしょうか。
今回私達が着目したのは、営業所単独の管理範囲を超えて、会社として受けられる運送依頼の数を最大化するための、配車マン同士のコミュニケーションです。
配車マンのパフォーマンス最大化の戦略には企業ごとの色がある
配車マンは、荷主からできるだけ多くの運送依頼を受け、自身の管理下にあるトラックとドライバーへの配車、さらには協力関係にある他運送会社への委託なども選択肢に入れて、できるだけ低コストで無駄なく依頼を履行することを目指します。
一見シンプルに見えますが、これはかなり複雑な最適化問題である上、各運送企業の経営戦略により配車マンの業務や関心事には違いが出ます。
例えば、営業所を特定の地域に集中的に配置して地域の覇権を握ることを目指す企業もいれば、全国に分散させてどんな依頼でも受けられる体制を作る企業もいる。鉄道やフェリーなど全く別の形態の運行を組み合わせる企業もいれば、トラックは変えずにドライバーを入れ替えて長距離運行を実現する中継輸送というテクニックを使う企業もいる。
それぞれの企業で、配車マンが必要とする情報は大きく異なります。
このような状況下では、一口に営業所間連携といっても、ただそれぞれが持っている情報を公開するだけでは現場の活動を本質的に支えることはできません。
機能を構想していくうえで、主に論点になったのは下記の2点でした。
配車マンが自社の戦略に合った形での配車を実現するために、何の情報を、どの粒度で、どのような形で共有しあうか
請求・支払や管理会計・分析など配送後の業務に適切に繋ぐにはどのようなデータモデルである必要があるか
機能紹介
上記の検討を経て、実際に営業所間連携として開発した機能を2つご紹介します。
①案件共有機能
特定地域に集中して営業所を構えている場合、ある営業所で受けた運送依頼を、他の営業所のトラックで運ぶことがあります。
稼働率を高めるために近隣で案件を融通しあうこともあれば、事務工数削減のために荷主に対する窓口営業所を決めておき、配車は適した地域の営業所に回すなど、背景事情は様々です。
ロジックスはもともと1テナント内での多営業所展開には対応しており、案件に所属営業所を紐づけることで、案件一覧や配車表などの画面でユーザーごとに適した範囲の情報が表示される機構を備えていました。
しかし、「ある営業所で受けた運送依頼を、他の営業所のトラックで運ぶ」という状況になると、この機能だけでは下記のような運用上の課題があります。
配車漏れのリスクが高いため、他の営業所から回ってきた案件は区別して一覧できるようにしたい
取引先とのコミュニケーションを円滑にするため、受注した営業所が荷主への運賃請求を、配車した営業所が協力会社への支払を行いたい
会計上の売上としては実際に車を動かした営業所に計上したいが、配車マンの営業成績としては受注営業所ベースで計上したい
これに対して私達は、案件に「受注営業所」と「配車営業所」として2つの営業所を紐づけられる改修を行いました。
手段としては単純かつ簡単な一手ですが、複雑な受注関係にある案件でも、これ一つで適切な情報表示や絞り込み、後続業務へのつなぎ込みが自然な形で行える土台として十分に機能します。このモデル変更と、関連画面への細かな展開を重ねることで顧客が自然に業務を行える機能に仕上げることができました。
②空車連携機能
九州から東京へ運ぶなどの長距離運行を行っている運送企業にとって、『帰り荷』をどうするかというは大きな問題です。
東京まで行ったはいいものの、そこから九州へと戻る際になんの案件も受けずに空のまま帰ってしまうと、会社としては大きな損失になってしまいます。
そのため、配車マンは遠方へ向かうトラックに対して、あらかじめ着地点の付近から自営業所の地域付近までをルートとする案件を探し出して受注しておく必要があるのです。
しかし、運送業は地域に強く根付いており、遠方になればなるほど営業力は及びにくくなります。帰り荷探し専用のプラットフォームやマッチングサービスなどもありますが、仲介手数料もかかるため利益率としては芳しくありません。
そのため、帰り荷を着地点に近い地域の配車マンに依頼して手配してもらうことで、自社が持つ営業力を最大限活かすという工夫を行っています。
今回開発した空車連携機能は、このやりとりを普段の配車業務の中でシームレスに行えるようにしたものです。
他営業所に配車権限を渡したいトラックと期間を登録すると、その情報が先方の配車表にも連携・表示されるようになります。
前後の案件情報も自動で共有されるため、いちいち電話でコミュニケーションしたり、引き継ぎメモを探し回る必要もありません。もともとは電話やスプレッドシート運用で回っていた業務が配車表上に統合されたため、認知しやすく、手配漏れや情報の更新漏れも自然と起きなくなりました。
「情報公開」を超えた、「情報連携」のあるべき姿を追求する
ただ案件の情報を共有できたり、各営業所の配車表を自由に確認できるというだけでも、デジタル化が遅れていた運送会社にとってはもちろん大きな前進です。
しかし、運送業で高稼働・高利益を達成するというユーザーにとっての本当の価値を生み出すには、各運送事業者がそれをどのように実現しようとしているのかという戦略を理解し、その戦略を支えられる基幹システムの構築を目指す必要があります。
そこまで踏み込んで初めて、現場で本当に使われる、価値あるツールとしてユーザーに受け入れていただけるのだと、日々感じています。
営業所間連携で高めた解像度をもって、次のステップ「協力会社間連携」へ
自社内だけでなく地域での横のつながりも強い運送業界では、営業所間の連携にとどまらず、同じ運送業を行っている協力会社間での情報連携も強く求められています。
しかし、協力会社との連携では、更に緻密なセキュリティの確保、他社間でのコミュニケーションや業務プロセスの設計、ロジックス外への連携など、さらに乗り越えるべきハードルが多くあります。
それでも、これらの課題は乗り越えるに値する価値とポテンシャルが必ずある、とてもやりがいのある挑戦です。営業所間連携で高めた解像度と知見を持って、この領域に真正面から挑んでいきます。
おわりに
全9回にわたるCTO of the Year記念リレーも、これにて終了となります。ここのリレーを通じて、私たちロジックスが挑んできた数々のチャレンジや、物流業界の現場で起きているリアルな課題を、すこしでもお伝えできていれば幸いです。
私達はこれからも、物流業界の真価を開き、すべての産業を支えるため、日々挑戦を続けていきます。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。