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20年ぶりの歯医者記録 〜5本目〜
歯医者の日が来た。この日は朝から実についていなかった。
星占いは最下位だし、ティッシュは底を尽きるし、じゃがいもからは芽が生えた。
あまりにも嫌なことが重なる。これは只ならぬ現象だ。
もしかすると…これらは全て、神のお告げではないだろうか。
「杏藤よ…。歯医者に行ってはなりませぬ。歯医者に行った暁には、この世に災いが訪れます。いいですか杏藤、歯医者を避けるのです…」
そんなことを遠回しに言っているのではないだろうか。
神様が言うんじゃあ仕方ない。私は直ぐに歯医者に電話をした。
「あ、もしもし。本日予約の杏藤ですが。実は神様が行くなと言うので、今日はキャンセルでお願いします」
などど元気よく言う、、、なんてことは出来ず、治療中の奥歯と虫歯の親知らずを携えて、本日も大人しく歯医者へ向かった。
本日も、麻酔をかけて奥歯の治療を進めていく。
二度めの奥歯治療は、前よりも口の開閉具合が分かり
「分かってんよ。こんくらいだろ? え? はは、どうだい」
などと、ドヤ顔で口を閉じたり開いたりしていた。
しかし、口を閉じたり開いたりしているというのは、実に疲れる。
もう、尋常じゃないほど顎が痛い。
人生で今までこれほど開いたり閉じたり開いたりしてきた経験が無い故、本当に辛い。
もし、『口を開いたり閉じたり研究会』というものがあるならば、どうすれば顎が辛くならないか、そのコツを教えてもらいたい。
ああくるしい。ああ口を完全に閉じたい。そして二度と開きたくない。
そんなささやかな願いを抱きながら、開けたり閉じたりする私。
更に本日、新たなドリルが導入された。このドリルがいけない。
ぐぎゅるりりりりりぃぃぃぃぃいいいいん
と、鈍い音を出しながら、その振動で脳を揺らすのだ。
顎が痛い中、脳みそまで揺さぶられてプチ拷問気分だ。
揺れるうううう。顎が疲れるうううう。
揺れるうううう。顎が疲れるうううう。
揺れるうううう。顎が疲れるうううう。
これを数回繰り返していたら突如、謎の休憩時間を設けられた。
ふいに主治医がいなくなり、助手が「休んでいてくださいね〜」などと言う。
!? なんだ? これは何タイムだ?
「休んでいてくださいね〜」って、おやすみタイムなのか?
私の顎を休ませるためなのか? それとも別の患者さんを診るためなのか?
なんとも言えない休息時間。助手の気配も直ぐ傍にあるし、いつ明けるか分からない謎の休憩時間の不気味さに、正直休息どころでない。
しばらく経つと主治医が再び現れ、謎の時間のことには一切触れず、またぞろドリルでぐぎゅるりりりりりぃぃぃぃぃいいいいんを再開した。
この、謎の休息時間は計2回行われ、そのつど私は静かに狼狽するのであった。
これはあれに似ているな。美容室でカラーをした際の放置時間…。
その間に他の人の施術をするあたりも似ているな…。
そんなくだらないことを考えているうちに、二度めの奥歯の治療は終わりを告げた。
帰路でも始終、あの謎の休憩時間が私の頭を悩ませ続けたのであった。
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