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種なしブドウ
「この種なしやろう!」
果物仲間にそう罵倒された僕は、シャインマスカットと共に肩をすくめた。
『食べやすい果物』という理念のもと、幾度も品種改良されてきた僕たち ピオーネやシャインマスカットに種という部位はもうない。
僕たちもはじめは違和感を感じていたが、時が経つにつれ次第に慣れて、今じゃ自分たちに種があった日々がどんなものだったのか定かでない。
「子孫を残すための大切な種を捨てるなんて…果物としてのプライドはないのか!?」
僕の皮に果汁を飛ばしながら激怒する仲間の言葉が一切刺さらないかと言うと、そういうわけでもない。
僕たちは果物として生まれたはずなのに、その存在理由は人間に楽に、おいしく食べられる為だけで、それ以上の未来も希望も必要性もないのだ。
僕たちは消費される一方で、望まれない限り進化をすることも、もちろん退化をすることも許されない。
虚しい存在だ。
感情を抱くことすら、最近はひどく面倒だ。
どうせこんな事を思ったって、僕らは結局食べられて、それでおしまい。
だから悲しむことも、憤ることも近ごろほとんどない。
だけど今、果肉の内側から沸き立つものが確かにある。
今、僕とシャインマスカットは共に同じ気持ちを抱いている。
目の前で、癇癪を起こしながら火花を散らせているこの果物仲間に、力いっぱい反撃したい。
僕たちは、互いに目配せをして、横柄な態度を取る果物の皮をはいでやった。
アケビ先輩やドラゴンフルーツさんに種がないことを言われるならばまだしも、この世で最も食べやすいように改良された、バナナ先輩にだけは、何が何でも屈するわけにはいかないのだ。
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