マイナスの掛け算
女は数学が苦手だった。
テストでは赤点ばかりで、どんなに丁寧に解説されても理解できない。
彼女の数学に対する苦手意識はマイナス同士の掛け算から始まった。
プラスとプラスをかけると、増えるというのはわかる。
マイナスとプラスをかけると、マイナスが増えるのもなんとなくわかる。
だけれども、マイナスとマイナスをかけると、プラスになることが理解できない。
マイナスがマイナス分増えそうではないか。なぜプラスになるのだ。
数字を見ると吐き気を催すまでになった女に、ある男が説明をした。
「これはつまり、マイナスからマイナス要素が減ってしまうから、結果的にプラスになるのだよ」
女は幾度説明されても理解できない。
「じゃあ、地球に喩えよう。最近自然災害が多いよね? 大変に勢力の強い台風が来たとする」
女は頷く。
「この台風による被害はマイナスだ。では、台風の復興もままならない中で核戦争が世界で勃発したら?」
女は
「それはこれ以上ないくらいのマイナスだ」
と答えた。
男は女の意見に耳を傾け、ゆっくりと口を開いた。
「いいや。これはプラスだ。なぜなら核戦争というマイナスが掛け合わさることで、この地球上から人間がいなくなるから」
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