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展覧会所感

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展覧会の所感を記しています。
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アピチャッポン・ウィーラセタクン「太陽との対話(VR)」

アピチャッポン・ウィーラセタクン「太陽との対話(VR)」

国際芸術祭「あいち2022」の委嘱による作品。

映画鑑賞とVR鑑賞の2部構成からなる。映画は主人公の男性のモノローグを背景に市街地などの風景がゆっくりと切り替わっていく。男性は夢を見たと語る。夢の中で詩人たちが集まってくるのだという。「彼らは見ないふりをする」ということばが印象的である。

映画鑑賞のパートでは、同じ会場内で前の上映回の参加者がVRを鑑賞している。VR鑑賞者が装着しているゴーグル

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ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ

ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ

会期末近い金曜夜とあって、会場は結構な混雑、体力のない悲しさで、順を追って行儀良く鑑賞することは早々に断念し、気になった作家/作品に絞って観ることとした。

アーシル・ゴーキーという作家の作品を初めてきちんと観た(「無題(バージニア風景)」(1943-44頃)、「無題」(1946頃)、「無題」(1945頃))。

黒の絵具・クレヨン・鉛筆による不思議な形が並び、ところどころに無造作に色が置かれてい

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野又穫 Continuum 想像の語彙

野又穫 Continuum 想像の語彙

ひとけのない、架空の巨大構築物。作家はずっとこのモチーフを描き続けている(ごくまれな例外として、初期の「静かな庭園40 Still-40」(1986)には2人の小さな人物が描き込まれていた)。今回、作家の作品を小さい建築模型としてリアライズしたもの数点も合わせて展示されている(「Arcadia 3D-1・3」(1988)など」)。

異様に長い梯子など、いかにも模型好きの喜びそうな造形である。模型

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東京国立近代美術館70周年記念展「重要文化財の秘密」(を観にいったのですけど)

東京国立近代美術館70周年記念展「重要文化財の秘密」(を観にいったのですけど)

「重要文化財の秘密」展終了間際の土曜の夕方に駆け込んだところ、かなりの混雑で、人を観に行ったかのよう。でも、会場に入って一作目、菱田春草の「黒き猫」(1910)が観られたのは幸せであった。

画面の上半分が柏の木の枝と黄葉、下半分は下端から右端へ向かって木の太い幹が斜めに伸び、その幹に黒い猫が座っている。ごく限られた要素のみに絞られたシンプルな作である。初めはタイトルからの思い込みで、猫にばかり目

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ダムタイプ 2022:remap

ダムタイプ 2022:remap

【展示を未見のかたへ 以下の所感は、展示についてある程度細かい記述を含みますので、ご留意いただけますと幸いです】

「第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示でダムタイプが発表した新作インスタレーション《2022》を、アーティゾン美術館に合わせて再配置した作品」(展覧会パンフレット)。

広い正方形の展示室の中央に、ひとまわり小さい正方形の領域が約45度傾けて区切られ、これが基本の配置

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佐伯祐三ー自画像としての風景

佐伯祐三ー自画像としての風景

画題が下落合であっても、パリであっても、佐伯は決してリアリズム志向ではなかったと思う。建物を描いても、画面端のほうはごくフラットに省略されていたりするし、風景の中に描きこまれた人物も実にそっけない描き方をされている。

だが、今回の展示を観て、初期から生涯を通じて、画面の一部に特に「現実的な質感」とでもいうべきものがある作品が多いと感じた。ここで「現実的な質感」というのは、リアリティとか写実性とい

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「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展」

「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展」

シーレと同時代の、クリムトをはじめとするウィーン分離派などの作品も多数、というか、シーレ作品は展示作品(115点)の半数足らず(49点)。これで「シーレ展」て言われてもねえ……と心の中で少々ぼやき始めつつ観始めた。

ところが、クリムトの作品「シェーンブルン庭園風景」(1916)の前で足が止まる。不思議な絵である。画面の下3分の2を池の水面が占める。巨木の水影が梢まで描かれている。おもしろいのは、

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アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真 〜許斐儀一郎作品について

アヴァンガルド勃興 近代日本の前衛写真 〜許斐儀一郎作品について

「海外から伝わってきたシュルレアリスムや抽象美術の影響を受け、1930年代から1940年代までの間に全国各地のアマチュア団体を中心に勃興した写真の潮流」(展覧会ステートメント)である「前衛写真」を取り上げ、大阪•名古屋•福岡•東京それぞれの土地で活動したグループを紹介する展示。

戦前の1939年から1940年まで福岡で活動していた「ソシエテ•イルフ」という前衛美術グループがあった。写真だけでなく

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「ゲルハルト•リヒター展」

「ゲルハルト•リヒター展」

会場に入ってすぐの展示室中央に「8枚のガラス」(2012)が展示されている。作品の4つの隅からガラスの中を覗くと、各々のガラスに映り込んだ天井の小さい照明が数次の反射を経て、小さな星雲のように見える。会場を行き来する鑑賞者や監視員の幾重にもダブる姿も加わり、不思議な美しいイメージが立ちあらわれる。

「アブストラクト•ペインティング」シリーズは、観たところタイトルの通り、抽象的なイメージの表現に思

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「3.11とアーティスト:10年目の想像」

出品作家:加茂昂、小森はるか+瀬尾夏美、佐竹真紀子、高嶺格、ニシコ、藤井光、Don’t Follow the Wind

東日本大震災、そして東京電力福島第一原子力発電所の事故から10年となる。以前の職場でお世話になった先生が直後に、この出来事は確実に人生を変えるものとなる、と語っていた。その言葉を聞いた場ではそんなものかな、と思ったのだけれど、今振り返ってみると、自分自身の生活もいろいろな点で小

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「光―呼吸 時をすくう5人」(原美術館)

 原美術館が閉館してしまった。わたくしは決して真面目な鑑賞者ではなかったけれど、雰囲気のある建物の中でさまざままなものを観て、ああでもない、こうでもないと思考を巡らせた想い出は自分の中でそれなりの重みがある。かけがえのない場所がなくなった今、何の誇張もなく、よすがを失った思いである。
 最後の展示にはこれまでの不真面目さを繕うつもりで何度も通った。所感を記してみたい。

参加作家と作品は以下の通り

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