京都SF大会がっこうぐらし!原作者海法紀光先生登壇トークショー(文字おこし)

登壇者
・海法紀光(がっこうぐらし!原作者さま)
・芝村祐史(刀剣乱舞、ガンパレの人)
・重馬敬(ルナシリーズ、月光の人)

海「そろそろゴングを鳴らしてもよろしいでしょうか」
芝茂「カーン」

海「それでは戦いを開始しましょう」
芝「とりあえず第一発目としては、ゾンビものってSFでいいのかい?」
海「面倒くさいことを言いますね笑」
芝「おれ面倒くさいSFオタクだから笑」
海「ゾンビをSFとするのかってのは珍しいんですよね」
芝「最初の1965、6年とかの段階だとSFだった気がする」
海「『地球最後の男』ですね」
芝「あれはでも吸血鬼だよね」
海「吸血鬼ですね」
芝「まだゾンビに…まあでも我々が一般に思ってるゾンビの動きは全て『地球最後の男』だから」
海「そうですよね」
芝「パンデミックとゾンビものの話でいくと、『地球最後の男』がもう既にあの…ウイルスじゃなかったと…」
海「吸血バチルス、細菌ですねあれは」
芝「そっから始まってるんで、パンデミックとゾンビものって、事の最初から繋がりがあったと言ってもいいんじゃないですかね」
海「ゾンビものはもっと遡れるんで『ホワイトゾンビ』とかこの辺はブードゥー教的なオカルトゾンビですね」
茂「そのオカルト的なものが、僕たちの知るゾンビになったときに、細菌とかウイルスとか科学の要素が入ってきたのは何故なんですかね」
芝「この話の第一歩をするためにはそれこそ『地球最後の男』から始めなくてはいけなくて…あとは『マミー』の関係かな」
海「ゾンビ映画の歴史を観てたんですけど…初期のブードゥーゾンビものって、祭祀(悪い奴)がいて、ゾンビを操ってオネーチャンを攫うっていう話が殆どなんですけどこれ実はミイラもののプロットと大体同じなんですよね」
芝「でもここら辺になると戦前のB級映画ってみんな女性を攫うじゃない」
海「半魚人とかね」
芝「キングコングでもいいよ。女性が攫われる、それを男が追いかけるっていうフォーマット。これ以外のフォーマットだとプロデューサーの許可が下りなかったていう時代があったので」
海「世知辛い…」
芝「その中の1系統として『マミー』がありましたと」
茂「でもエジプトのミイラと言えば、実際の発掘の時に呪いで死んでいく、っていうのが伝染病を思い起こさせたので…」
芝「でも何故か映画には取り入れられずに呪術ものになるっていう」
海「時はまさに大エジプトブームですからね」
芝「それの亜種としてゾンビものが出て…。ここで俺分断があると思うんですよね。戦前のB級映画ものが切断されて、1965年あたりで世界終末思想というのがいっぱい広がったあとの世界があって、核戦争が一般に広がっちゃう。世界が滅んだあとの、ポストアポカリプスで、今のゾンビワールドみたいな」
海「『地球最後の男』の小説も、もう核戦争が一般化した時代ですよね」
芝「そこから、かな。でも元祖『ゾンビ』はウイルスとかじゃないんだっけ」
海「『ナイトオブ〜』と『ドーンオブ〜(ゾンビ)』は特に説明されてなくて、オカルトだったかもしれないんですが…でもロメロはその間に『クレイジーズ』という映画を撮っているので。これは軍が持っていた伝染病の菌がばら撒かれて、人が襲ってくるという。これは単なる感染者ですね」
茂「僕たちが見てる側としては、オカルトよりもウイルス感染の方が分かりやすかったんですかね」

芝「と、いう訳でここから『がっこうぐらし!』の話に…行く直前の話なんですが、『ぐらし!』は由緒正しいゾンビものとして細菌由来だったりするんですけど、ここで、大変な、映画とか作品を作ってる人たちがあんまり知識が無いせいで細菌とウイルスが混ざっちゃってるんですよ。ウイルスって生きてる生体の機構を利用してるんで、死人にウイルスは引っ掛からないんですよ。エネルギーも得られないし動くこともできないから。だから一番最初の『地球最後の男』だとちゃんと細菌になってるんですよ。細菌は独自で動くから死体を餌にして身体を動かしてるって話だったんですよね」
海「しかもこの細菌っていうのはバチルスなので、色んな環境に適応してばら撒かれるってとこまでフォローしている。やっぱね、一番最初の作品は学びがありますね」
芝「だからこれはSFなんですよ。そっから段々ただのパニック映画になっていく。…っていう前振りがあった後での、『がっこうぐらし!』ですよ。どうよ『がっこうぐらし!』」
海「色々考えたんですけど、細菌でしばらく動くんだけど、その内腐るじゃん」
茂「まあ、ね」
海「で、飲まず食わずでいると動けなくなるじゃん?エネルギー無くなって」
芝「その度に死体食べるんじゃないの?」
海「お互いに死体を食べてどんどん共食いしてったら、どんどんこう数が減ってって、そんなに脅威じゃなくなるじゃん?」
芝「それはタイムスケールが長いか短いかの話になってくでしょ。2、3年だと猛威を振るうかもしれないけど、流行ってるものは段々弱毒化していく。人がバーンって死んでくようなウイルス細菌はあんまり流行らない。それでいうとゾンビ細菌っていうのはものすごくエコなんじゃない。人を永く生かすようなのあるじゃん」
海「でも発症率が物凄くてどんどん人食ってくので、あいつらすぐいなくなっちゃうんじゃないかって。少なくとも地球は滅ぶかもしれないけど、頑張って4、5年引き篭もってたら助かってハッピーエンドってなったら困るので」
芝「それだと困るんだ。『がっこうぐらし!』の絶望感を出したいっていう」
海「そこはあの『ワールドウォーZ』っていう作品があるんですよ。あの作品のゾンビは強い。とにかく死なないし、凍っても溶けると出てくる。あの作者の『ゾンビサバイバルガイド』を見てると、あのゾンビはどうも明らかにオカルトなんですよね。なにせ古代ローマがゾンビに襲われて対抗するためにローマの壁を築いたとか適当書いてあるので」

海「なんで、私も『がっこうぐらし!』のゾンビは、あれは細菌で動いてるけど、本当はオカルトパワーで動いています。本当の話をすると」

芝「おいいきなり企画が潰れたぞ笑」
茂「SFちゃうやん笑」
海「まだどこでも言ってなかったと思うので本邦初公開となるんですけど」
芝「なんでこんなとこで言うんだよ笑」
海「折角お招き頂いたんだから本当の話をしなきゃいけないんで」
芝「俺世の中には黙っていた方が良いこともあると思うよ」
海「今まで色んな所でね、編集さんが『海法さん、それ黙っときましょうよ』って言われたんでね」
芝「まあいいや、ここで言わなかったら俺たち誰かに恨まれるよ」
茂「それはどこかに伏線が入ってるんですか?そのダークパワーに関して」
海「一応大学編でかれらの話をしてる時に、その誰かが『エネルギー保存則が成り立たなくて…』とかブツブツ言ってて、そこに『オカルトじゃねえの?』って言うんですけど。このオカルトじゃねえの?って言った人が正しい」
芝「正しいんか笑。それねえ読者分かんないかもねもっと踏み込まないと。
海「そうねえ」
芝「ところでそのオカルトパワーってどっから来てんの?」
海「それは…うーん…えーっと…これは聞かなかったことにして欲しいんですけれども」
芝「はいはい」

海「スティーブン・キングの『ダーク・タワー』から来てます」

茂「……(笑)」
芝「……アッハイ」

一同爆笑
芝「…あの、あまりにもぶっ飛びすぎて一瞬俺の思考が止まったわ」
茂「この(ぐらし!)世界のシステムとして、ダーク・タワーのパワーはどっから来てるんですか?」
海「あのぅ…そうですね、こう、この話を俺が本当にしていいか今悩んでるんですけども」
芝「いいじゃん」
茂「まあどうせここだけの話ですし」
芝「見に来た人達をモヤモヤさせんなよ笑」
海「千葉サドル先生にも、編集の先生にも、ニトロプラスにも関係なく、俺が勝手に考えてる設定なんで、これが真実かと言われるとそうでもないんですけど…」
茂「原作者でしょ笑」
芝「原作者がそれ言うなよ」
海「いや原作者がそうであっても、作品っていうのはみんなのものだから」
芝「あー、そうかもしれないね」

海「だからまあ、異次元からの侵略があるんですよ。クトゥルフ的なものとか、ダーク・タワー的なものとか、色々」
芝茂「はい」

海「で、それの電波を受けて、書き留める人がいるんですよ。それがジョージ・A・ロメロとか、スティーブン・キングとか。で、彼らがそれを書き留めることで、それらがフィクションになるので、これ以上現実に襲いかかってこないんですよ」
茂「ナルホドナルホド…地球は常に侵略を受けてるんだけど、作家がアンテナになって防いでいる。避雷針みたいに」

海「言い方を変えれば、例えば核戦争の恐怖というものがあって、それを作家が沢山書く。だからみんな核戦争を止めようとなる。で、『ゾンビ』を書くから、ゾンビウイルスみたいなもの研究するのは危ないよね、とバイオハザードへの恐怖が生まれるっていう理屈で回避されてるんですけど、『がっこうぐらし!』の世界では、スティーブン・キングが途中で死んでるんですね」

茂「…いつ頃死んでるんですか?」
海「えっと、『ザ・スタンド』の最初のバージョンを書いた直後に死んでるんです」
芝「ああ…じゃあもう…」
茂「結構初期に死んじゃったんですね」
海「ので、あの世界はもう、スティーブン・キングの色んな化け物、『It』のピエロとかがうろついてます」
茂「ピエロいるんですね」
海「アメリカ行くと多分います」
芝「車の化け物とか」
海「車の化け物とかいます」
茂「いるんだあ笑」

海「で、あのランダル製薬があの世界にあるのは、あれはランダル・フラッグです」

芝「(客席を見て)ほらぁ若い人分かってない!」
海「だから、キングの書いた『ザ・スタンド』の最後に出てくる、諸悪の根源のランダルさんです」
茂「あのランダルがこのランダルなんですね」
海「という、単なるオマージュじゃなくて、そこまで俺が考えて、編集さんが『いや海法さん何言ってるんですか』って言う、あの、レイヤーにあるんです」
芝「まあ、それはいつもの海法さんだよね」

海「で、実はダークパワーで動いてるのですね。勿論ジョージ・A・ロメロが亡くなっているのでゾンビという危険が世界に溢れており、で、ロメロが『ナイト・オブ・リビングデッド』を撮ったあと、『ドーン・オブ・ザ・デッド(ゾンビ)』を撮る前に亡くなってるんで、《ゾンビ》というワードがあんまり浸透してない」
芝「あ、だから明示的には使われてない」
海「だから『かれら』なんですね」

茂「すごいなんか初めて明かされる設定が笑」
芝「どうでもいいけど『ガメラ』みたいになってんね」
海「そうそうそう」
芝「『ガメラの世界には亀はいません!』みたいな」
海「これはね、ほら『ウォーキングデッド』でもゾンビとは言ってなくて。ゾンビもので『ゾンビ』という名がすごい手垢が付き過ぎちゃって、ゾンビという言葉を使った瞬間にシリアスにならなくなるって問題があるんですよね」
芝「まあそれは怪獣ものでもある訳じゃない。みんなゴジラって言ったら終わってしまうから。ゴジラとか怪獣っていうワードを使わないで脅威を表現しようとする」
海「そうですね」
芝「もう何度も襲来してきてて、ゴジラ慣れしてる国民を描いても面白くないから、ゴジラ映画が無い世界の住人を描くことになっちゃう」
海「その理屈で、『この世界には亀がいないので、ガメラを見ても誰も「あ、亀だ!」とは言わない』ってあれは大変素晴らしい設定だと謂うのよ。俺も意識的にパクってて」
芝「マジでぇ?」
茂「この子達があんまりゾンビゾンビって言わないのもそれなんですね」
海「実はこの(がっこうぐらし!)世界にはゾンビ映画がない」
茂「ないんだ笑」
芝「ゾンビという知識もない、みたいな」
海「ホラー映画はあるし、いくつか似たようなのはあるんだけど、所謂『ゾンビ映画』はない」

茂「だからこの漫画の終わりで一応解決してるけど、そういう意味では解決してないんですね?」
海「多分…この世界の裏で、アメリカとかできっとキング的な冒険が、『ストレンジャー・シングス』的な冒険があったのかもしれないし」
茂「実際ピエロが暗躍したりしてる訳ですね」
海「きっと誰か純真な子供達が6人ぐらいでピエロと戦って封印したりしてるのかもしれない」

芝「そう考えていくと、ゾンビの名称とかって、あんまり世界史に影響しなさそうじゃない?」
海「はいはい」
芝「でも亀がいなくなると、爬虫類の大成功グループがいなくなる訳だから…」
海「生態系の色んなもんに影響しそうですよね」
芝「ヤバいよね」
茂「亀のいない世界でガメラって造形を考えられるのもすごいですよね」
芝「回遊性の亀がいなくなるから、海洋系の生物の分布に強い直接的な影響が出ちゃうと思うんですよ」
海「まあ亀はいないけど、亀の位置を占める変な生物がいるんじゃないですか?」
芝「あー、収斂進化みたいな」
茂「なんでガメラを熱く語ってるんですか笑」
芝「すいませーん、オタクなんでー」

芝「じゃあ、次の話題に移りますか。まだ全然語りたいなら語っていいんですけども」
海「あー、じゃあ、ニトロプラスの『凍京NECRO』と『がっこうぐらし!』がコラボしてるシナリオがあるんですけど、こっちを見ると、ダーク・タワーとかスティーブン・キングみたいな名前がちょこっとずつ出てきて、意外となんか感のいい人は、『あっ関係あるんだな』と察することはできます」
芝「なる程。ただ最大の問題は、『凍京NECRO』サービス終了したんじゃない?」
海「そう。『凍京ネクロ』サービス終了してねえ、コラボシナリオは収録されてないのでね」
芝「オイ!お前沢山の人に今決して見れないものを宣伝したぞ!!笑大丈夫かこの作家って」
海「だから『凍京ネクロ』のコラボシナリオをやっていて、この講演を聞いた幸運な人は、俺の話の裏が取れるという」
芝「一人だっていねえよ!笑」
海「オンラインでもやってるから、この回を見てる人が100万人ぐらいいるとしたら、10人ぐらいはやってるかもしれない笑」
芝「俺たちの与太話を100人が聞いてるだけでも喜ぶべきなのに、100万人もいる訳ないだろ笑」
海「希望は高く果てしなくと申しますので笑」

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