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読書感想「マイクロスパイ・アンサンブル」

このお話は、2つの物語がそれぞれの視点で交互に書かれています。

ひとつはエージェント・ハルトとぼくの話。
もうひとつは松嶋くんの話。

この2つの世界線。不思議と繋がっているように見えて来ます。

任務に勤しむエージェント・ハルトとぼく。
任務は危険が伴う。

一方、松嶋くんは頑張りどころを就活に向けてしまい、彼女に振られました。悲しみに打ちひしがれて車で向かった先は「猪苗代湖」 

著/伊坂幸太郎
「マイクロスパイ・アンサンブル」
表紙のイラスト(装画)/TOMOVSKY

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これが冒頭の「一年目」の話となります。
以後、二年目から七年目まで。それから最後に「おまけ 七年目と半年後」が綴られています。

この2つの世界線が何と交わります!
そして「どこでもドア」ならぬ「扉」が出現します。
エージェント・ハルトとぼくが、松嶋くんの世界に来ます。

とはいえ、すぐには出会いません。
いくつもの偶然と奇跡が積み重なって「猪苗代湖」で出会います。

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あまり細かく書くと最後どうなるか(オチ)も書いてしまうかも知れないので割愛します。

サブタイトル「一年目」。
これだけでも何となく「あぁ、このお話は2つの世界(もしくは視点)があるのだなぁ」と思えました。
でも何となく繋がっているような?
共通したアイテムや描写があるような?
でもたまたまなだけで、やはり違う世界なのかな?とか。
伏線があるような無いような。
短いながらも楽しめました。

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あとがきを読みました。
なるほど!!
サブタイトルの「一年目」のお話。
2015年、福島県猪苗代湖を会場とした音楽とアートのイベント「オハラ☆ブレイク」での来場者配布用にと依頼されて書かれたとの事。
筆者伊坂幸太郎が「猪苗代湖を舞台にした、おとぎ話みたいな話」として書いたのが「一年目」となり、短いお話でした。

以降、このイベントも毎年開催したいとのイベント企画者が話されたのを聞いて、このお話も「二年目」「三年目」…へと続いたようです。

更に伊坂幸太郎の好きなミュージシャンの、「Theぴーす」と「TOMOVSKY」の曲の歌詞が随所に使われています。
歌詞の部分は字体(フォント)を変えています。
伊坂幸太郎も書いていますが、歌詞の内容が、前向きなような普遍的なような「ハッとさせられた」との事。
なるほどなぁ。
詳しくは是非!この本を読んで下さい!

「四年目」辺りから、1冊の本にまとめてみようと思われたそうです。
「七年目」まで小冊子として配られたのかは分かりませんが、2019年までは夏に初出、2020年、21年は秋に初出されています。
と言うことは、猪苗代湖で行われた「オハラ☆ブレイク」は、コロナ禍を乗り越えて開催され伊坂幸太郎の小説を来場者特典として配られていたのでしょうか。
羨まし過ぎる!! 
音楽とアートのイベント。
近くに住んでいたら行きたかったなあ。

ちなみに「おまけ 七年目と半年後」とプロローグの「昔話をする女」は、この「マイクロスパイ・アンサンブル」を単行本化するに当たっての書き下ろしだそうです。

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感想としては、松嶋くんと別の課の門倉課長が印象的でした。
謝る事に抵抗がない。
謝る事で解決するなら、頭を下げる事を厭わない。
家族の中でも、職場の中でも、そんなに評価は高くない。
でも。
あるエピソードが「七年目」で伏線回収されました。
門倉部長のそれは、本当は凄い事をしたはずなのに淡々と話されて、松嶋くんは驚いて問い詰めますが、「私とは限らないじゃないか。他にもそういう人もいるかも知れないなあと思って」と答えるのです。なので松嶋くんは頭を抱えます。
その時に聞こえる歌「いい星じゃんか」
飄々としている門倉課長。
そして松嶋くんは門倉課長と猪苗代湖の湖面を見つめます。
何も威張らず、何も誇らず、ただ風景としてあるだけなのに澄んだ気持ちにしてくれる。
松嶋くんは門倉課長を見直します。


このエピソードと伏線回収が物凄く鮮やかでした。
まさかここに繋がるとは!
門倉課長はモブ。脇役だと思っていたのに。
一気に私の中で株が上がりました。

読後感爽やかな作品でした。
あとがきも含めて楽しんで読んでみて下さい。


ここまで読んで下さりありがとうございます。

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