私的ジャズ論 ヒップホップとジャズ その3 ついにマイルスデイヴィス降臨
今回はヒップホップとジャズについての3回目の記事になります。前回までの記事を読んでいない方はこちらからどうぞ!
<第2回>
<第1回>
1回目はジャズとサンプリング、2回目はヒップホップとジャズミュージシャンがテーマでした。今回はジャズとダンスミュージックです。ジャズの始まりはダンスミュージックでした。では、「成熟したジャズやジャズミュージシャンが作るジャズはダンスミュージックでしょうか?」が今日のテーマです。
いろんなアルバムやセッションがあると思うんですが、1つの形として知っていただきたいものがありますので、そちらをご紹介します。
Miles Davis(マイルス・デイヴィス): On the Corner
(オン・ザ・コーナー)
ついにマイルス・デイヴィスの降臨です。私的ジャズ論の第2回で「これからジャズを聴き始める人はマイルス・デイヴィスを選んではダメ」と言い切った私ですが、それは今でも間違っているとは思いません。その時の記事はこちら ↓
今回はその記事と切り離して考えていることと、仮に切り離していなくてもこの後に紹介した5枚のおススメアルバムを聴いてもらっているはずだからソロソロ大丈夫なのではないだろうか?という考えもあったります。
では行きましょう!
まずこのジャケット。かっこいいですよね!見ていて楽しくなってきそうな感じ。部屋に飾っても絵になる。そして、私が所有する国内版のCDの帯にはこう書いてあります。
「こいつは" ジャズ "じゃない。" ダンスミュージック "なんだ!これぞマイルスの「ストリート宣言」。NYのクラブDJ連中が " バイブル "としているグレイト・ブラック・ミュージックだ!!」
熱い。ジャズじゃなくてダンスミュージック。マイルスのストリート宣言であり、ニューヨークのクラブDJのバイブルであるグレイト・ブラック・ミュージック。実際、どのような音楽なんでしょう?期待は高まります(よね?)。
この作品の発表は1972年です。マイルス・デイヴィスは1940年代後半には作品を出していたので、彼のキャリアではかなり後半の作品になります。マイルスのキャリアは大きく2つに分かれると言われます。
・アコースティック マイルス時代(デビューから1968年頃?)
・エレクトリック マイルス時代(1969年の「In a Silent Way」頃から)
の2つです。アコースティック マイルスはみんなと同じトランペットを吹いていた時代で、音楽的にも昔からのジャズスタイルを大なり小なり踏襲していた時代になります。一方のエレクトリック マイルスはトランペットをアンプに繋ぐようになったのと(マイクが付いた)、音もエレクトリックピアノをふんだんに使い、ギターもより歪んだ音になったり、バンドの編成も大きくなったりと全般的にフュージョン風もしくはロックバンド形式に変わってきた時代です。
バンドメンバーも多彩です。ハービー・ハンコック(Key)、チック・コリア(Key)やジョン・マクラフリン(g)など、その当時既にソロでも名前が売れているようなアーティストを携えての録音です(才能を見抜いてたいして売れていない時代から採用していたマイルスの眼力が凄いんですが)。
曲は全部で4曲と少なめです。しかも最初の1曲は20分弱あります。レコードならA面で1曲、B面が3曲になっていたんでしょう。曲は全てマイルス・デイヴィスのオリジナルと言うことになっています。聴かせどころは何と言っても1曲目でしょう。20分もあるんだから自信作に違いない。
ザラっとした音作り(やや音が割れ気味?)でガチャガチャと不器用にリズムが刻まれ、音全体は塊として大行進で進んでいくこの感覚は新しい。こんな音は聴いたことが無い。
しかし一番大事なことを言っておくと、「この音楽では踊れません!」これに尽きます。踊るためにはリズムが一定でメロディもリズムと調和した統一感や予定調和が必要です。リズム四つ打ちのハウスミュージックが典型です。が、このアルバムにはそれが全く感じられない。
ドラムがリズムを刻みますが、ハイハットこそ16分 で刻まれていたりしますが、ハイハットを開くタイミングが不規則だったり、肝心の裏拍を刻むスネアが4拍目だけに入っていたり途中で各頭拍になったりで、全体像を理解するのが大変です。というか規則性は無いんでしょう最初から。しかも曲は綺麗に小節の頭から始まっておらず、1.5拍の前奏の後から始まります。
なぜこんな感じの曲なんでしょうか?1つの秘密はテオ・マセロというプロデューサーの活躍があります。この作品は、マイルスとバンドのメンバーがレコーディング用に採り貯めたセッションをプロデューサーのテオ・マセロが編集したものなのです。彼の活躍はこの作品だけでなく、このひとつ前の「In a Silent Way」やのちに出る「Bitches Brew」でも聴かれます。どこまで彼の継ぎ接ぎが作品に影響しているのかよくわかっていないようですが、ほとんど継ぎ接ぎで、セッションそのものと全然違うレベル(良い意味で)と言う話はあるみたいです。
2つめの秘密は、そもそも論としてマイルス・デイビスが予定調和の音楽をやりたがらないからだと思っています。マイルスはずっとアコースティック時代から人と違うジャズをやってきた。
でもこの時代、ジャズはもはや大衆音楽の主流ではありません。ローリング・ストーンズもいたし(ビートルズは解散してます)、黒人の中ではジェームス・ブラウンやスライ・アンド・ザ・ファミリーストーンも出てきている(ジミ・ヘンドリクスは亡くなっています)。
マイルス・デイヴィスはジャズのモード的な解釈で新しいジャズを生み出しました。それはジャズの偉大かつ大きな発明であったのですが、ロックやファンクが持つ会場が一体となって盛り上がる高揚感や外向きのエネルギーとは真逆のものだったのでしょう。目を閉じ、眉間にしわを寄せ、足でリズムを取りながら聴き入る音楽。そんなジャズを打破したいという思いがマイルス・デイヴィスにあったとしても不思議ではない。
会場にいる数千人や数万人の観客が汗だくになって踊りまくるフェスやライブ。マイルスはそんな環境をうらやましく思ったに違いありません。より大きな会場で大きな音で演奏できるような楽器への進化と、ロックを意識した楽器編成への変化。全てはデカい会場と観客の熱狂を得たいがためのマイルス・デイヴィスの作戦であったと思っています。
でも人と同じことはしたくないし、メンバーはほぼジャズ畑だし、マイルス自身も自分で何か新しい道が見えているわけでもなかった。だからセッションをやるだけやったら、それをテオ・マセロの編集に任せた。結果できた音楽は踊れはしないけど、なんとなくロックっぽくはあるし、ジャズでもある。これはこれでいいんじゃないか?という形に落ち着いたのがこの作品。私はそう理解しています。
個人的に数あるマイルスの作品の中でも、この作品はかなり好きです。エレクトリック マイルスの中では一番聴いていると思います。人によっては「Bitches Brew」とか「In a Silent Way」とか「Pangaea」とか意見も多いと思うのですが、個人的にこの作品が一番手軽にロックとジャズの間を聴けて、かつ何となくファンクグルーヴのウネリを感じられる。
2曲目も聴きどころですが、これも踊れないです。どちらかと言えばフュージョンでしょう。が、こちらも不思議な雰囲気はあって、これはこれでありですね。
3曲目と4曲目は2曲目と同じ曲なのかな?という感じです。恐らくテオ・マセロが編集して別曲風に仕上げたものだと思います。
ということで、ジャズからのダンスミュージックへの回答は、全然踊れない抽象度が高いプログレ的なものとなってしまいましたが、それはそれでジャズファンには人気(注目度?)の高い作品に仕上がりました。
やはり、ジャズはどこまで行ってもジャズということなんでしょうか。
ただ、この作品でキーボードを弾いているハービー・ハンコックはこの後バンド「ヘッドハンターズ」と組んでファンクミュージックで大成功しますし、さらに80年代には当時大流行したシンセサイザーを大胆に活用した「ロック・イット」を大ヒットさせ、ついにビルボードチャート100位以内に登場するようになります(ダンスチャートでは1位だったようです)。
ちなみにハービー・ハンコックはこの記事の2つ前で紹介したUS3のヒット作の原曲(カンタロープ・アイランド)をやっていた人です。この人も才能あふれる人です。
マイルス・デイヴィスの大いなる実験は、必ずしもメインストリームの音楽ファンに広く受け入れられたわけではないが、この経験は後輩の才能によって後に大きく花開くことになったと言えるのではないでしょうか?
音が気になった方はぜひ自分の耳で確かめてください!
いったんヒップホップとジャズの関係性のお話はここまでとします。
次回はまた別のネタでお会いしましょう。
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