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清水義範「国語入試問題必勝法」

まず、この作品は短編小説であり入試用の参考書ではありません。とある受験生が父が雇った家庭教師から大学入試用の国語の問題を解くコツを教わるという短い話です。清水はこの作品で吉川英治文学新人賞を受賞しているそうです。

この作品が面白いのは、大学入試における国語問題のナンセンスさを家庭教師の月坂という人物の口を通して批判しているところです。しかもその徹底ぶりが凄い。そもそも入試問題を読む必要がない、というところまで否定しています。

当然、これはその背後にいる問題作成者の試験作品への理解度や、大学で文学を教える者(教授など)の文学的価値観への皮肉でしょう。また、作者の清水が愛知教育大学国語科卒(愛知では教員輩出校で有名)ということを考慮すれば、彼自身の大学入試問題への問題意識への現れとも取れるかもしれません。

今でこそ大学は全入時代、大学入学を希望する高校3年生は全員大学に入学できますが、この作品が出た当時(昭和60年代)はまだ違いました。子供の数は今の3倍、大学の数は学部数なども考慮すれば、今の半分ぐらいでしょう。単純に言えば6倍ぐらい入るのが難しかった時代。大学側も入って欲しいというより、落とすための試験をしていた時代です。浪人生も珍しくありませんでした。

個人的には、本作品で展開される家庭教師の月坂のアドバイスが、実は大学入試問題というこれまで誰も試したことがないユニークな素材をモチーフにした大学の文学部教授陣への批判である、というところが彼の新しい批判文学の形として評価できると考えています。

作品自体は非常に短いものですが、切れ味の良い文章と批判的精神が好きな方にウケが良いと思います。文庫版には他の短編もいくつか収録されており、そちらもニヤリとしてしまうトーンの文章が多く楽しめます。

深く理解しているものだけができる技、それがユーモアを交えて批判すること。私はそう信じています。

ちなみに、国語の試験で問題文を読まないで回答の選択肢だけを見て、そこから正解を追うという受験テクニックは「例の方法」という参考書で実在し、一世を風靡しました。

関心のある方はぜひ手に取って自身でご確認ください。

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