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単色病患者3ヶ月の記録 1


#ホラー小説部門

あらすじ 
目を覚ますと、自分だけ世界が一色だった。昨日までカラフルだった世界が突然、単色になっていた。また目を閉じると色が変わる、何色になるかは分からない。


本文
 俺は普通の大学生、今日もバイトのために早起きする。

「あれっ、なんだこれ?」

目がおかしい、痛くもなければ痒くもないのに、おかしい。洗っても洗っても治らない。世界が一色しか無い。

「ってワケなんですよ、信じてくださいよ!本当に、世界が黒だけで他の色が見えないんですって!」

バイト先に電話するも、取り合ってくれない。そりゃそうだ、俺だって信じたくない。瞬きする度に色が変わる、しかも単色。昨日までのカラフルな世界は消えている。

「病院行ってから、行きますんで!ご迷惑をおかけします。」

病院に行くことにした。一人暮らしを初めてから初めての病院が、まさか眼科なんて夢にも思わなかった。20年生きてて眼に異常をきたしたことはない、むしろ視力もいい方だ。

 緊張しながら順番を待つ。

「太田仁さん、10番の診察室へどうぞ」

診察室に入り、今日起こった症状を全て話す。一旦視力検査しましょうと言われたが気が気じゃない。

「目はよく見えてますねえ、特に悪い所は見当たらないけどなぁ?」

「そんなはずは、あっ!今青単色になりました。」

 大きな病院の紹介状を書いてもらい、そこへ行くことになった。こんな例は初めてだという、ネットで検索しても一件も引っかからなかったから、きっとそうなんだろう。けど大病院に行ったら、何かが分かるかもしれない。そんな望みを込めて、病院に行く日を待つ。

 「お疲れ様ですー病院行ってきたの?」

「行ったんですけど、ちょっと大きい病院紹介されちゃって。バイト休む頻度上がるかもしれないです。」

「お大事にね、無理しないでね」

大学の同級生を心配させてしまったが、全然仕事は出来るから大丈夫。俺はファミレスの厨房で働いてる、食品の扱いは色がなくても料理は出来る。

「ハンバーグとオムライスお願いします!」

慣れてるから、余裕だろ。そう思いいつもの要領でミンチ肉に手を伸ばす。
「あれっ…これなんの肉だ」
いつもは見分けがつくはずの肉の見分けが、つかなかった。同じ場所にあるはずなのに、違う気がする、色が同じで分からない。ミンチが紫色だ、いつも微細な違いだけで見分けてたから全く分からない。動揺し瞬きすればするほどもっと、分からなくなる。

「大丈夫ですか?」

「肉が、分からない。」

 分からないと、キッチンで働けないに決まってる。早く治さないと、バイト以外にも支障が出る。いやもう出始めている

 朝起きると、黒かった。今度は一面真っ黒だった。昨日はオレンジだったのに、瞬きする度に色が変わる。

「カチャン カチャン」

瞬きが音を立てている。気持ち悪い。クラクラする。今日は体調がいつもより悪いから、大学を休むことにした。

携帯から着信が入った、友達の彰人だった。そう言えば一緒に、モーニング食べてから行くとか何とか言ってた気がする。

「もしもしー!寝坊したか!」

「ゴメン、今日体調悪いから、学校行けねぇ。」

電話は一瞬で終わった、いつもこうだ。要件を聞いたり、言ったりしてすぐ切る。けど今はこれがありがたい。今日は思う存分寝て明日以降への英期を養う。

 二時間くらい経っただろうか、トイレに行きたいと目を覚ますも、相変わらず色は戻らない。

ふと洗面台にある鏡が目に入った。

「ッ…!なんだよこれっ!」
 
鏡に写った目は異常なほどカラフルで、白目を覆い尽くしていた。何度も何度も顔を洗い目を洗浄しても、落ちなかった。

けど、前まで取り合って貰えなかった眼科もこれを見たら流石に分かってくれるだろう。そう信じ俺は眼科へ足を運んだ。

「うーん、分からないね。普通に白目だよ、全然カラフルじゃないし。」

「えっ、そんな…!鏡で見た時には白目を覆い尽くすくらい色があって」

「力になれず申し訳ない。」

そう言われ俺は眼科を後にした。
なんでだ、なんで分かってくれないんだ、まだこの世に解決法がない病気なのか。そうだきっとSNSなら、何か同じ症状の人と出会えるかもしれない。そう思い俺は早急に、アカウントを開設した。

「大学生です。 今月から視界が単色になる現象に悩まされています。誰が同じ症状を持った方はいらっしゃいませんか?」

そう投稿し誰かからの反応を待つ。

待てど暮らせど反応は無かった。まだ一件しか投稿してないから仕方ないとは分かっているが、見放されているかのような気がした。どんどん気持ちは、ネガティブになるばかりだった。

今日は遅いから寝る、明日になったら目が元に戻ったらいいなと思いながら布団に入る。

翌朝もやっぱり治ってない。それどころか悪化の傾向まである。前まで見えていたはずの視界が色によって遮られている、どんどん視界が奪われていくことに恐怖するしかなかった。もちろん体調も悪いが、昨日休んだから行かなくてはいけない。バイトもある

恐る恐る外に出る。外は情報が多いからある程度視界が奪われても、確認出来ることは出来る。しかし文字が見えないこの前まで当たり前のように見えていたはずなのに。一色の世界になっても、まだ見えていたのに。覆われている。文字同士がくっついて、ひとつの色にしか見えなくなっていた。

電車も乗れる、これは日々のルーティンの賜物だった。文字が潰れても音声案内で大学までたどり着けることが出来た。

駅前には同じ学校に行く人たちが多いからこの人たちについて行けば問題ない。

「おはよッ!」

「おはよー」

人の顔は認識出来る。しっかり彰人だって分かる。

「昨日大丈夫だったか体調?」

「大丈夫なはず…」

「なんかあったらいつでも言えよ!」

優しいな、コイツならきっと信じてくれるはず。今度言おう友達に隠し事はなしだからな

「そうだよな、うん。」

誰かに言わないと正直やって行けないが、今言った所で誰にも相手にされないことは分かっていた。

「昨日病院行ったけど、何もなかったよ。」

「そりゃよかったな。安心したよ、万が一何かあったら遅いからな」

既に起こってるなんて思ってもいないだろうよ、能天気なやつだ。

俺は誰にも理解して貰えない病状に苦しみ、イライラし始めていた。

「オイオイ、さっきから手止まってるぞ。大丈夫か?」

「大丈夫だよ。」

「いつも熱心にノート書いてるのにさ、一文字も書かないなんて妙だろ?」

「分かってるって。」

「分かってるって、そんな訳ないだろ絶対おかしいって。」

「うるさいなぁ!もうほっといてくれ!」

そして俺は彰人に怒鳴り散らした。聞くに絶えない罵詈雑言を浴びせ俺は追い出された。

相変わらず視界が一色だ。今は透き通った青意味わかんないよな、いつもと違う俺を気遣ってくれたのに理不尽に怒鳴られてさ。視界は一色しか無いのに涙は出てくるもんな。謝りたいのに、どこにいるのか分からない。
彰人も俺も。

追い出されたあと無心で走り気づいたら知らない所にいた。今はひたすら視界の回復を待つのみだった。

文字が読めないから携帯で調べる事すら出来ない。あぁなんでこんなに酷いんだ過去に俺が何かしたのか。

カチ カチ カチ 瞬きする度に視界の色が変わる一番見やすい色に調整する。ごく稀だが透明が出現することがあるためそれを待つ。

カチ カチ カチ カチ

はたから見たら瞬きが異常に多い人だろう。イライラするため呼吸も荒い。しかも泣いている不審者である。

一本の電話が入る。彰人からだった

「今どこにいんだよ!」

「分からない。」

「周りの看板とかなんか無い?」

「見えない…」

「ビデオ通話に切り替えてくれ、迎えに行く」

ビデオ通話に切り替えると彰人は「すぐに行く」と言いすぐに俺の所に来た。

「探したよ、今日は帰ろうぜ。」

「怒ってないのか」

「まぁ意味わかんないとは、思ってるけど。よっぽどの事情があんだろ?言いたく無ければ言わなくていいし。」

そんな訳ない、言いたいに決まってる。けど否定されるのが怖いんだ。けど言わなきゃ一生後悔する気がする。

「俺、視界が一色なんだ。色が一色にしか見えない。」

言ってしまった、どんな反応だろうか。やっぱり否定?それともドン引きか?どんな反応でも受け入れる準備は出来ている。

「そうなんだ、出来ることあったら言ってくれ。」 

「ひっ、引いたりしないのか?変だと思わないのか!?」

「別に〜、だってお前はお前だろ。」

その言葉に涙が溢れた。俺はコイツのことを勘違いしていた、目がおかしくなってから全員が俺を否定してくるようなそんな気がして、信じてくれない人ばっかりで。もうダメかと思ってた。

「辛かったな、もう大丈夫だ。ひとりじゃないよ。」

「ありがとう。じゃぁ早速だが俺の頼みを聞いてくれないか?」

「俺病気の治療に専念したいから、大学中退しようと思ってる。もう文字もろくに見てないんだ、中退しても友達でいてくれるかな?」

「いいよ、暇だったらお前ん家行くし。」

「ありがとう」


 中退し日々病院通いが続く中、一通のダイレクトメッセージが俺の運命を変えることになってしまった。

忘れていたが、俺は闘病アカウントを作成したはいいものの、誰からも相手にされず放置していた。ほぼ単色の世界になってしまった今はぼやっと文字を見ることくらいしか出来ない。

メッセージの文字が見えない、黒と文字の相性は最悪である。何とか瞬きし見えるようになった。メッセージの内容はこうだった。

「はじめまして、突然の連絡失礼します。私たちは、ドキュメンタリー番組を制作しております。様々な病気や稀な症状などを、リアルに取材し放送する番組です。オオタ様の日々を密着取材させて貰えませんでしょうか?お忙しいとは思いますが、お返事をお待ちしております。」

ざっと要約するとこんなことが書いてあった。俺はテレビを見るほうなので、この番組の存在も知っているし見た事もある。

この番組はドキュメンタリー番組の中でもかなり攻めた内容で、その人のリアルを届けることに関しては右に出る者はいない。けどあまりにもリアル過ぎるが故に、度々クレームが来たりしてるらしい。

けど俺の現状をこうして放映することで、誰かを助けられるかもしれないし、これを見た医者によって俺の病状が回復するかもしれない。俺は藁にもすがる思いで番組にメッセージを送った。

「はじめまして、ご連絡ありがとうございますオオタと申します。ドキュメンタリーの件ぜひ引き受けさせて貰いたいです。よろしくお願いします。」

送った、送ってしまった。これから俺が全国放送に映るんだ。色んな気持ちを抱えていると、連絡が帰ってきた。

「ありがとうございます。それでは病状を細かく教えてください。いつから発症したのかや時刻など、覚えてることを書いてください。」

指定が細かい、正直文字を打つのも一苦労なのに、この人ちゃんとつぶやき見てるのか?不審に思ってた時、追記のメッセージが来た

「私の電話番号です。こちらにかけていただければ、電話対応も可能です。よろしくお願いします。」

不安なのは消えないが、こちらは藁にもすがる思いだ絶対に放送させてやる。そう決意し電話を掛けた。

「はい、番組担当です。」

「はじめましてオオタです。」

そう自己紹介し、番組担当さんに覚えてる全てのことを話した。

「分かりました、後日家にお伺いさせていただきます。」

やったぁ、無事番組に出演することが決まった。これでこの視界からもおさらば出来る。そう思えば、一色の世界も悪くないのかもしれないと思い始めいた。

彰人に報告しないと、そう思い彰人に電話した。

「彰人、彰人!俺実はさテレビの取材でドキュメンタリーのやつに出るんだよ。凄くね!」

「よかったな、これで病気認知されたらスーパーヒーローだな。」

「だろ〜、どんな感じなのかちょっと楽しみかもしれない。」

「けど、あの過激なドキュメンタリー番組は気をつけろよ。本当に」

「何でだよ?」

「悪い事は言わない、そこなら今すぐやめろ。」

「大丈夫そこじゃないからさ」

「そうか、じゃぁよかった。また電話してこいよ」

咄嗟に嘘を付いた、なんでダメなんだよ。リアルを映してくれた方か俺にとって好都合じゃないか。半端にやられるよりマシだ。

番組からメッセージが届いた、どうやら取材日程が決まったらしい。

頑張るぞ…


 「はじめまして、私たちがオオタ様に密着します。よろしくお願いします。」

「お願いします。」

「基本はいつも通りに過ごしてもらって構いません、たまに質問に答えていただければそれで大丈夫ですので。あと原則風呂トイレ以外はずっとカメラを回しますが、気にしないで下さい。」

怖っ、まぁドキュメンタリーだし仕方ない所もあるだろう。

「じゃぁ撮影していきますねー」

いつも通りでいいと言われたはいいものの、やっぱりカメラがあると意識してしまう。普通に座ってるだけなのに妙に緊張感が走る。

「インタビューするんで、答えてください。」

「よろしくお願いします。」


「まずは、年齢を教えてください。」

「21歳です」

「いつからこの病状に悩むように?」

「半年くらい前ですかね」

「学校とかは」

「中退しましたね」

などインタビューと言うより、軽い質問だった。なーんだ楽勝じゃないかと余裕をぶっこいていた。

「家族には」

「言えてないですね、信じて貰えるかわかんないですし。」

「友達には」

「言いましたね、信じてくれました。」

「実生活でこれがしんどいとかって」

「基本気分が悪いですね。瞬きする度に視界がめちゃくちゃになるので。」

とここで一旦インタビューは終わった。それでもカメラは回っている。ほぼ隠し撮りみたいな雰囲気である。

一人暮らしのためやることがほぼ無いので、誰かに話しかけようとするも、全員から無視されてしまった。まぁ仕事中の人に話しかける方が非常識ではあったが。

ちょっと異様な空気である。

まぁいいと昼寝をしようとした瞬間、近くにカメラがやってきた。

「えっ、えっ。寝たいんですけど?」

無視、本当に声が聞こえてないような振る舞いで誰も一切動かずただ、俺を撮り続けている。こんなの眠れるわけない

「ちょっと、別の場所に行って貰っても。」

その場からピッタリと動かないスタッフたち、俺はおかしくなりそうで布団から飛び起きた。すると同時にスタッフ全員が俺の動いた方へ、カメラを向けてきた。

動揺してしまって瞬きが止まらない、一瞬で変わる視界に気持ちの悪さが限界に達し俺は
嘔吐した。

「ちょっ、撮らないで。」

目の前には汚物、それをピッタリと動かないまま撮影し続ける。誰に話しかけても返事が無い。頭がおかしくなりそうだった。

「今からインタビューです」

「そんな気分じゃないんですけど」

俺を無視してインタビューが始まった。

「視界の色は、どんな風に見えてるのですか?」

「一色です、絵の具で塗りつぶしたような色で覆われてます。そこから若干見える情報を見てます。」

「文字は見えるんですか」

「黒とかだったら、見えないですけどそれ以外だったら見ようと思えば。」

「病院での診断結果は」

「まぁ原因不明、過去に例がないからどうしようも出来ないって言われました。」

「あのっ、皆さんは質問以外の時どうしてそんなに、喋らないんですか?」

「ピタッ」

さっきまで、流暢に喋ってたはずなのになんで。俺が立ち上がるとカメラが着いてくる。
本当に人間なのか疑わしいくらいに、機械的な行動を取る姿に恐怖を覚えた。

訳分からんと思い、俺はトイレに向かった。トイレには付いてこなかった。安堵しているのもつかの間、トイレから出たらカメラを構えた姿が見えた。

「ヒッ」

今俺が手を洗っている姿を撮られている。人が入る限界突破した、人数が押し寄せている。

「カチャ カチャ」

目が充血してるのか、白目が赤かった。
それともまた俺にしか見えない、色なのか。相変わらず気持ち悪い、早くこの目をどっかにやりたいと思っていた。


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