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単色病患者3ヶ月の記録 2

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 痛い、目が痛い。目がおかしい
点眼しても、痛い。こんなことはこの前まで無かったのに。ただ視界がキモイだけだったのになんだこれ。


「はっ、あはは」

撮影されている事をすっかり忘れいた。じっと止まったまま俺を撮り続ける。

「インタビューの時間です」

「先程ずっと洗面所で、目を見つめていましたが何か変化があったんですか?」

「いやちょっと、目が痛くて。目薬も効かなくて。」

「ありがとうございます、少しお待ちください」

そう言われ、俺は待つことになった。その瞬間はカメラは回っていなかった。しばらくして撮影が再開した。何か話していたような雰囲気だった、さっきまで自我が無いロボットみたいな人たちが喋っていた。

「それは初めての症状ですか?」

「そうですね、いつもは視界が一色で気持ち悪いだけだったので。」

「その他に変化はありましたか」

「今のとこ無いですね」

「病院に行く予定はありますか」

「行こうかなって思ってます。」

そう答えると、またピタッと撮影するだけの時間になった。

 夜になり、夕食を作ろうとしている時また目が痛くなった。今度は耐えれない程の痛みで、思わずその場でうずくまってしまうほどだった。

「あっ…ガッ」

その様子を撮影するだけで、誰も助けようともしなかった。俺はそのまま死んでしまうかと思った。

今日は夕食をやめて、痛み止めを飲んで寝ることにした。

「インタビューです」

「えっ、もう寝た…」

「先程の頭の痛みはどれほどなのか、教えてください。」

「気を失いそうになるほど痛かったです」

「どの病気と似てますか」

「それはちょっと、分からないですけど衝撃的な痛みでしたね。」

「明日何時から病院へ」

「それはまだ分からないです」

番組の密着取材が来てから、まだ一日経ってないのに酷く疲れた。これが続くとなると頭がおかしくなりそうだ。誰かに相談したいがまだ初日だ、これから適度に距離を守ってくれると信じて。

起き抜けから、早々とインタビューされおかしくなりそうだった。しかも何度も何度も、今日は 何時に病院に行くのか、そんな質問ばかりしてきた。

そんなに病院に行って欲しいのかと、若干イライラしながら病院へ向かう。

「ええっ!病院まで着いて来るんですか!?」

「俺送迎バスで行きますよ!?」

そう言っても、聞かずに小型カメラでバス移動を撮影してきた。移動場面の何がたのしいんだか?

「ここが俺の通ってる病院です。」

「病院に入る前にインタビューです」

「えぇぇ…」

「なぜこの病院を選ばれたのですか?」

「かかりつけ医の紹介です」 

「あのっ、もう行っていいですか!時間迫ってるんです!」

「歩きながらでも構いませんので」

なんなんだよ、あまりにも密着取材しすぎだろと思いながらインタビューに答える。

「前回はなんの検査をされたんですか」

「いつも通り視力検査と、脳の検査です。」

「脳の検査とは何をされたんですか」

「前回は色々質問されて、最後にMRIみたいなのを撮りました。」

「ピタッ」

またインタビューが終わったら、ひたすらカメラを動かすだけのロボットになった。

俺は受付を済ませ一段落し、くつろぎモードに入った、カメラはさすがに立ち入り禁止だと思っていたが、なんと撮影許可が降りていた。

俺は大量のカメラと取材班を従えた妙な人として、今変に注目を浴びてしまっている。

「あのっ、もう少し人数減らせませんか?」

そう聞いても無視、インタビューの時間にならないとこの人たちは喋らない。

「周りの患者さんの、迷惑にもなると思うんで一旦外出ませんか?」

「ちょっと!動いてくださいよ!」

まるで地蔵のように動かない。本当に人間なのか疑わしいほど感情も無く、ただそこにいる。

「太田さんー太田仁さーん診察室へどうぞ」

「あっ、はい!」

俺の名前が呼ばれると、さっきまで立つ気配すらなかった取材班が一気に動き始めた。

「じゃぁここからは、俺一人で行きますんで」

そう行って診察室へ入ろうとした瞬間、取材班が俺を押しのけて、グイグイ入ろうとして来た。

「ちょっと!非常識ですって!やめてください!」

抵抗も虚しく、取材班は診察室へ入ってきた。

「ありゃ、今日はまた大所帯ですね。」

「ごめんなさい、テレビの取材を受けてまして。」

「まぁドキュメンタリー系の密着取材は、医者の私は慣れてますよ。大丈夫です」

そういうと先生はいつも通りに、診察を始めた。

「うーん前も言ったけど、どこにも異常はないんだよね。何か変化とかあった?」

「変化というか、ストレスと言うかちょっと目が痛くて。」

「そういう些細な変化が、発見に繋がるからどんどん言って。」

「インタビューの時間です。」

診察中もインタビューするのかよ、なんてヤツらなんだと心底ドン引きしていたら、先生の顔が一気に変わった。

「あんたら!まだ懲りずにこんなことやってるのか、もう二度とここに来るなと言っただろ。出ていけ。いいから出ていけ!」

いつもの先生と全く違う様子に、俺は驚いた。過去に何かあったのだろうか。先生が誰かに電話しながら、怒鳴り散らしている。
地蔵のような取材班も、少し動揺しているように見えた。

取材班もどこかから連絡を受け、大人しく診察室を出た。

「すまない、今日は帰ってくれ診察代もいらん。」

そう言われ、病院を後にする。どうしたんだろうと若干心配になるが、過去にも似たような出来事があったんだろうと先生に同情してしまった。

「あのっ、密着取材してくれるのは嬉しいんですけど節度を持って取材してください。」

「ピタッ」

「本当にお願いしますよ!」

本当に分かってるのかよ、そう思いながら家へ帰る。

「バスは、何時だ」

何度瞬きしても、上手く調整出来ない。

「あの、バスの時刻教えてくれませんか?」

「15時です。」

そこはあっさり教えてくれた。さっきまでは全く反応が無かったのに、相変わらず奇妙だな。

「インタビューの時間です。」

「先程目が調整出来なくなっていましたが、症状は」

「前まではギリギリ見えてたんですけど、ちょっと調整が上手く行ってなくて。」

「今の視界の色は」

「青です。」

「他に目立った変化などは」

「調整したら、前は薄いパステルカラーが出てきてたんですけど、今回は濃くて文字が見づらい色ばかりでした。」

そう答えると、またピタッと動かなくなった。帰りのバスの中でカメラを回しているだけだった。

「質問していいですか?」

「なんでしょう」

初めて俺の質問に答えてくれた、これで過激な密着取材が少しでもマシになるかもしれない。

「さっきバスの時刻、教えてくれたじゃないですか。それって何か心情の変化とかあったんですか?」

「病状が悪化した方には、最低限の手助けをするようにと上から言われていますので。」

「悪化してなかったら、助けてくれなかったってことですか…?」

「はい」

そこからは何を聞いても、きっと無視されると思い俺は何も質問しなかった。


 家に着くと、留守番していた取材班が、俺の薬や、病状などが書いてある大事な紙を、全て出して撮影していた。

「ちょっと、あんたら何してんだよ!いくらなんでも限度ってもんがあんだろ!」

すると取材班は特に悪びれもせずこう言った。

「あのね、君は僕たちが取材させてあげてる側の人間なんだよ。テレビの力で君の病気を全国に広めてあげようって気持ちを、汲み取れないわけ?」

「かといって、個人情報を勝手に散らかしたりしていい理由にはならない!」

「やめろよ!撮るなよ!」

いくら言っても、撮影を一向に止めそうにない。あまりにも非常識すぎる

「急に大勢で押しかけてきて、名前も名乗らないで一体誰なんだよ!あんた!」

「あぁ、そういえば名乗ってませんでしたね
僕は所謂プロデューサーみたいな人でこっちが、カメラマンの人たち。」

「あなたが一番この中で、偉い人ってことですか。」

「そう言う事になるかもね」

「非常識な取材をやめてください。」

「君の中では非常識なのかもしれないけど、僕の中では全然大丈夫だと思ってるから続けるよ。」

「そんな、なんで…」

「だって他の番組は、ぜーんぶ嘘だし。病気の人の綺麗な所上澄みの所だけ切り取って発信してるだけじゃん。」

「だからと言って、俺のプライバシーを侵害していい理由にはならないです。やめてください」

「ンじゃ分かったよ、プライバシーの侵害はしないし非常識な取材もしないよ。」

「けど、君の病気のリアルだったり良くない所を発信して行く事にするよ。それでいいだろ?」

「わかりました、あと取材の期限ってどれくらいなんでしょうか。」

一番ここが気になっていた、この生活をずっと続けていたらおかしくなってしまうと思った。

「大体3ヶ月くらいを予定してるかな?」

「そうですか、じゃぁ最後までよろしくお願いします。」

他にも色々気になる事はたくさんあったが、聞き出したらキリがないように思えた。彰人のことを素直に聞いておけばよかったと後悔している。


それから二週間ほど経ったが、前のようなプライバシーを侵害した取材は無くなり、比較的穏やかな生活になっていた。

「今日は病気へ行きます。前回中途半端で終わっちゃったので。」

相変わらずスタッフさんたちは、ロボットや地蔵のようにピタッと動かないけど、前のような非常識インタビューは無くなった。
スタッフさんが前回のように病院に取材許可を取ろうとしていたが、受付の人が顔色を変えて、まるで恐ろしいものをみるように取材班を追い払った。

「はぁっ、はぁっ」

「あのっ、大丈夫ですか…?」

「大丈夫です、かけてお待ちください。」

何があったんだろう、そう思いながら外にいる取材班を見ながら俺は待つ。

「太田さんー太田仁さんー」

いつもと同じ感じで、診察室へ向かう。前回のこと先生はどう思ってるのか色々気になった。

「いやぁ、前回は中断して申し訳なかった」

「今回は取材許可がとれてなかったみたいで、俺一人なんですけどよろしくお願いします。」

「はいはい、そうか残念だったね。診察していくねっ…!」

先生が見たことない顔になった、あまりにも大慌てで俺は別の部屋に運び込まれた。

「どうしたんですか?」

「君前ね、白目に色が付いてるって言ってたでしょ見える?」

俺から見たら色は緑。視界から無理やり白目を見てみると色は普通に白だった。

「普通に白だと思うんですけど?」

「そんなはずは無い!とりあえず今から手術するからね。はい!」

えっえぇ、とんでもないスピード感で手術が決まってしまった。意識のある中緊急手術することあるんだとか、思いながら麻酔に身を任せる。


「はい、太田さん起きてくださーい」

そういえば俺は、緊急手術になってそれで…

「体調大丈夫ですかー?」

「はい…」

本当は全然良くない、手術するって言っても一体全体なんの手術なのか覚えていない。安静にしてくださいと言われたので、今は視界を塞いでいる。

「あれっ、案外快適かもしれない。」

俺は視界が一色になる状態から解放されている。これはとてもつない発見かもしれないと思い、連絡を試みた。だが

「ダメです!絶対にあの人たちはこの病院に入れません!」


受付の人に、強い口調で断られてしまった。確かにあの人たちは非常識だったけど、今は改心して程よい距離感で接してくれてる。俺も前のような嫌悪感は少なくなっている。

「よしこうなったら、別の作戦だ。」

俺は彰人に連絡をして欲しいと受付の人に伝えて、病院に来てもらうことにした。

息を切らした彰人が、俺の病室にやって来た。

「お前、大丈夫か!?」

「手術はもう終わったんだよ。」

「そうか、よかった。」

「連絡して欲しい人たちがいるから、アドレス帳開いてくれないか?一番上にある、記録シリーズ取材班ってやつなんだ…」

「おっ、お前。嘘だろ、違うって、言ってただろ!なんでこいつらの取材受けてんだよ!」

そういえば、彰人にやめとけと言われていたような気がしたが、今俺はこの状態のことをいち早く伝えたい思いが強かった。

「いいから、繋いでくれ」

「そんな、おい、なんでっ…」

「早く!俺は早くあの人たちに伝えたいんだ。今が一番大事なんだ。俺は大丈夫だから!」


悪い人ではないと分かった今、取材を受けたことの無い彰人の思いは正直どうだっていい。

「ごめん、席外してくれないか。」

彰人には聞かせたく無かった、電話中に何か言われたら厄介だし。

「もしもし!今手術が終わって、ちょっと分かったことがあったんでお伝えしたくて。」

「どうしたんですか?」

「はい、手術終わりで安静にしてるんですけど、一番いい状態なんです!目が見えない状態が!」

「そうですか、また帰ってきたら教えてください。では」

そう言って電話が切れた、これで俺の闘病生活はきっといい方向で終わる。だって目は見えてるけどずっと一色に支配されるよりは、いっその事目を見えなくすれば俺は幸せになれる!

「電話終わったか?」

「終わったよ、ごめんね。」

「いや、それよりお前に話しておきたいことがあるんだ。」

「なんだよ、改まってさ」

「記録シリーズ取材班は、やめといた方がいい。お前のためにも、家族のためにも。」

「なんでだよ、彰人お前あの人たちの何を知ってんだよ!勝手なこと言うな…」

「全部知ってんだよ!」


普段は声を荒げない彰人が、初めて俺の前で大声を出した。

「俺の母親は、アイツらに殺されたんだよ!何度も、何度も繰り返し質問攻めして、母さんの辛い所とか、人に見せたくない所とか全部撮影して、テレビで流した!」

「回復の兆しが見えたら、昔の辛かったことを思い出させて、どん底に突き落としてストレス作って、悪化させて。アイツらリアルを追求したドキュメンタリーを作るんじゃなくて、過激なものを撮るだけのただの化け物だ!」


そんなはずない、そんなはずない。だって俺の言ったことちゃんと聞いて受けいれてくれた。今と昔では話が違うかもしれないじゃないか。

「彰人、俺は藁にもすがる思いでこの密着取材に応じてるんだ。昔はそんな感じだったかもしれない。けど、今は違うんだちゃんと俺のことを気遣ってくれて話も聞いてくれてるんだ。」

「俺も、本当は仁に取材を受けて欲しいよ…。けど、俺の母親はこの取材で追い詰められて、自ら命を絶つくらいだったんだよ!だから俺はまた母さんみたいな人を、もう見たくないんだよ。」

「大丈夫安心して、俺は死なない。」

「そう言う意味じゃないんだ、取材を中断して欲しいんだ…」

「もう、やめてくれ彰人!どんな形であれ俺はこの病気を直したいんだ。例え目が見えなくなってもな。帰ってくれ」


そう言って俺は、彰人を追い出してしまった。まだ安静にしなければいけないのに、かなり大あばれしてしまい、段々眠くなってきた。


 久しぶりの快眠であった。目を覚ますと、一色の世界がまた広がっていた。

「うわあああ、なんでだよ。手術したのになんで。なんで!」

病室で声を出して泣きじゃくっていると、一本の電話が鳴った。出てみると取材班だった。

「今すぐ外に出てください、私たちと一緒に帰りましょう。」

そう言われ、俺は入院中の部屋を飛び出し勝手に取材班たちと共に、家に帰ってしまった。

「おかえりなさい。」

「帰ってきました、みなさん改めてよろしくお願いします。」

俺の電話には、病院や彰人からのメッセージが何件も来ていたが、全て無視。俺はこの病気を治すんだ、そのためには取材を受けていち早く、放送してもらわないといけないんだ。

「目の包帯はどうしたんですか。」

「これは、俺が編み出した一番いい方法なんです!こうしたら視界が一色に覆われなくって済むんです。デメリットは目が見えないことなんですけど、気持ち悪い視界よりはマシかなって。」

「そうなんですね、じゃあ試しにカメラの前で今の状態を見せてください。」

「わかりました」

そう言い包帯を取ると、目に激痛が走った。

「痛ったぁぁぁい!」

俺は大声を上げその場で倒れ込んだ。


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