マガジンのカバー画像

鳥籠姫シリーズ

4
中学時の恩師に捧げた、ふありの書斎の処女作です。 日頃書いている少女小説とは異なる、童話のような雰囲気の優しい物語です。 是非、一読してみて下さい。
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事
鳥籠姫 act.1

鳥籠姫 act.1

いとおしい小鳥
きみはぼくだけの
いつもそばで歌っておくれ

あなたの願いはどんなことでもかなえてあげたかったの

だけど願いだけここに残してあなたは消えた

永遠の旅へと

海の見える丘の家に

時間だけが静かに積もる

わたしはわたしを ここに閉じこめた

柳の枝で編んだ鳥籠

 ある海の見える丘に、一軒の小さな家が建っていました。広々とした丘にぽつんと建つ姿は物寂しく、海から流れてくる風だけ

もっとみる
鳥籠姫 act.2

鳥籠姫 act.2

 
 翌日、少年は東の森に出かけていきました。お金が無かったので自分で編むことにしたのです。少年の目的が何か解らないまま、いつも通りメルトゥイユも少年のあとについていきます。東の森は柳の木が大半を占めていました。少年は枝がくねくねとゆるやかに曲がった柳の枝を選びました。鋸で枝を二、三本切り落とすと、葉を毟って《むしって》いきます。すっきりとした枝になると、今度は家から持ってきた彫刻刀の平刀を使用し

もっとみる
鳥籠姫 act.3

鳥籠姫 act.3

 メルトゥイユのもとに、虫の知らせが届きました。丘の家の少年と別れてから数ヶ月経った今、少年の求める声が聞こえてきます。

愛おしい小鳥 

メルトゥイユ どうか戻ってきておくれ

 メルトゥイユは、柳の巣から飛び出しました。仲間たちが止める声にも耳を傾けず、吹雪の中を必死に羽を羽ばたかせました。
「あの人が呼んでいる。寂しくて泣いているんだわ。ああ、わたしはなんて薄情だったのかしら…。あの優しい

もっとみる
鳥籠姫   act.4  

鳥籠姫  act.4  

 澄み渡った空気の中、白銀の雪はやむ気配がありませんでした。街医者の診療所から、若い医者の青年と、メルトゥイユを乗せた二輪馬車は吹雪に抗うように丘を登って行きます。特別二人に会話はなく、強いて言えば、お互いの名前を交換するくらいでした。
「僕はフェリックス。街で開業医の父から引き継いで医師をしています。まだまだ経験不足ですが、苦しんでいる人たちを救いたいという熱意だけは自負しています」
 二輪馬車

もっとみる