175. Seitengrat/その夏と秋の間に⑤
12.そり立つ壁
そこには岩の壁があった。目の前にそり立っている。背筋がゾワゾワする。心臓がバクバクする。
「なんて大きな岩なんだろう。登りたいな」と灯は思った。子どもの頃はこんな岩や壁をよじ登ったり、這いつくばって下りたりするオテンバ少女だった気がする、と思いながら壁を見上げた。
「ねぇ、灯。これは登る岩ではないよ」とどこかから彼の落ち着いた諭すような声が聞こえた気がして、ハッと我に返った。
灯は「いつか岩壁を登れるようになりたいな…」とポツリ呟いた。彼に言うと笑われるけども。
さすがにSASUKEのようにそり立つ壁は登れないが、鎖場などには挑戦してみたい。
13. Seitengrat
灯には大きな夢があった。ベテラン登山家からすると一笑されるとは思うが…。
灯は、上高地の先、涸沢から奥穂高岳へ向かう道のりにSeitengratという場所があることを知った。
彼と一緒に秋の涸沢でテント泊をし、ザイテングラードを経由して穂高岳山荘まで登りたい。それが灯の夢だ。
カラフルに彩る数々のテントと秋の涸沢。その美しさを彼から教えてもらってから、灯は涸沢までの地図や道のりを調べるようになった。彼が登るなら私も一緒に登りたい。いつの間にか涸沢を目指すことが目標となった。であれば、ホームマウンテンでのトレーニングや今回のトレッキングは、全然辛くない。
Seitengrat(ザイテングラート)とは、ドイツ語。日本語では「支尾根」。穂高連峰の岩支尾根、涸沢ヒュッテから先、ザイテングラートを登り切った標高 2,983メートルのその場所に穂高岳山荘がある。最終的に目指すはココ。そんな事を言ったら、絶対彼に笑われる。そして、「山を舐めるな」と言われるはずだ。だから、まだ言わないぞ…。もう少し鍛えてから、提案するんだ。登山経験を積んで、もっともっと「成長したね」と彼から言われるようになってから、ね。そんなことを考えながら、50Lのザックを背負い、肩と背、腰椎を軋ませながら最終盤の峠道を上がっていったのだった。
お話はあと少し続きます。
コレコレ、これ!登りたーい!奥穂は見上げるだけでいいからさ。
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関係ないが、祝 oasis再結成!
8/27からoasisな毎日です。