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突然吹奏楽部の顧問となる⑼

 経験のない吹奏楽部の顧問となって2年目。
 その年から始まった「民間企業研修」と夏のコンクールの日程が重なりました。予選は1位通過でしたが、学生指揮者で挑んだ県大会は「銅賞」。このあたりから「煙」が立ち始めます。
 部内にはコンクール至上主義による分断が起き、私が「民間企業研修」で不在の間に「指導」と称して出入りしていたOBが問題を起こしました。
 冬のアンサンブルコンテストでは、コンクール至上主義チームが県大会で銅賞、普通チームが地方大会金賞で全国直前までコマを進めるという事態も生じ、混迷が深まります。

夏休みの事件①

 話は、顧問になって2年目の夏休みに戻ります。
 この年から始まった「民間企業研修」の該当者となった私は、年内に15日間、学外で研修を受ける必要があります。
 私は2回にわけて申し込みました。進路指導部長からは、「あなたが研修に行ってしまったら、夏休みの小論文講座・記述対策課外を誰がやるんだ!」というお話もいただきました。しかし、「研修を夏休みに終わらせて、受験直前の冬休みはフリーにする」ということで納得をいただきました。
 そして、日程が変更になり、1回目の研修が、吹奏楽コンクールと重複してしまったのは、ここまで記してきました。この時、音楽大学に進んだOBが、「顧問がいなくて大変だろうから」ということで来校し、合奏指導などもしたそうです。
 そのOBは、現役時代に停学×吹奏楽部を停部にするという事件を起こしていました。そして、私が研修で不在の間、来校すると校内で喫煙していたそうです。それも、部員と話をしながら(部員は吸っていません)。
 これを教えてくれたのは、「生徒指導部長」。
 「知らなかったの?」
 「知りません。初耳です」
 「OBは君が頼んだの?」
 「いえ、全然。県大会の指揮を誰がという話し合いをしていた時、音大に進んだOBがいるということは聞いていました。しかし、それだけ。指揮者の候補にもなっていないです。ただ、現役部員に近所の知り合いという者はいます」
 「わかった…。何かあったら教えて。あと、夏休みの練習はどうなっているの?」
 「お盆明けから、文化祭の演奏のための練習がはじまります。ただ、私はお盆明けから始業式前日まで研修で不在です。」
 「わかった…。その期間、私がよく見ておくから」

夏休みの事件②

 お盆明け、生徒指導部長が、校内で部員と話しながら喫煙しているOBを見つけました。その頃、「公的施設の敷地内禁煙」が条例として成立しました。学校も同じです。「教員も含め、学校敷地内禁煙」を伝えるために部長が近づきます。20歳を越えているOBは、「何がいけないの」という反応だったそうですが、事情を伝え、また現役高校生と一緒の場では控えてほしいこと、また顧問の先生の許可を得て吹奏楽部に出入りしているかどうかなどを問いただしたそうです。
 そして、その場を通りかかった部長と、OBと話をしていた部員からこんな話を聞いたそうです。
「先日、吹奏楽部の卒業生の宴会があった。そこに、誘われて参加した現役部員がいる」
「会場は、市内の居酒屋。2階貸切で参加者は30名ほど。そこで、現役部員にお酒を飲ませたり…ということがあったらしい。」
「実は、毎年冬に、公式な吹奏楽部OB会が開催され、夜は宴会になる。そこに現役部員も招待される。その場でも同様なことがある…」
「音大に進んだOBは、来校した日、練習が終わると現役部員を飲みに誘う。断れずについていった部員もいる」

 その夜、生徒指導部長から電話でその話を聞きました。
 部長・副部長とSkypeをつないで、事情を確認しました。
 生徒指導部長は、この件を生徒指導案件にはしないという方針です。その代わり、「音大に進んだOBは以降出入り禁止にする」「吹奏楽部のOB会に申し入れをする」という提案をいただきました。
 OBは、呼び出して学校長から伝える。
 OB会にも、学校長から「夜の居酒屋に高校生を招待することは自粛してほしい」と伝える。

 この内容、部長に伝えて相談してよいですかと生徒指導部長に問うと、「全然だいじょうぶ。結果は折り返して。私も明日、部長さんにこの話を伝えないといけないから、そのことも伝えて」との返事。
 そして、この件は部長の賛同を得て、さらに部長から部員にも伝えられて話し合いをしたそうです。その後、生徒指導部長が、「こういうことがあったことを伝えてくれたこと」「伝えるまで耐えてくれたこと」に感謝を示し、本件の対応についての学校としての考え・根拠を伝えてくれました。部員も納得してくれたそうです。

部員の反応は…

 その頃、飲酒や喫煙に対する高校生の価値観は変化していました。
 飲酒や喫煙はダサい。煙草のけむりと酒臭い宴会の席に参加することへの嫌悪感。そういう感覚が過半数です。
 そんなわけで、ホッとしたという部員が過半数。
 ただ、先輩に懐いていたり、ご近所で小さい頃から知り合いという部員もいます。そういう部員が、OBと現役との間に挟まれてしんどい思いを抱える可能性はありました。そういう場合は、遠慮なく相談することを伝えました。今回の対応は「関係を断て」ということではありません。
 「お酒と煙草は20歳から」という、そういう単純なことです。
 

吹奏楽部OB会に招待される

 アンサンブルコンテストが終わった2月下旬、正式な吹奏楽部OB会の「夜の部」に招待されました。OB会には、創部時の部長だった方から、大学1年生のOBまでいます。
 最初は「現役の顧問の先生」ということでおもてなしを受けていましたが、お酒が回ってくると「ざっくばらんな場」になります。そこで…
 ①なぜ現役部員をOB会に招いてはいけないのか。
 ②顧問が不在中に「好意」で指導したOBがなぜ出入り禁止になるのか。
 ③そもそも県大会で「銅賞」とはけしからん。顧問はやる気があるのか。
 などの苦情を受けることになります。

 OB会長も、年下の学校長から「口頭で勧告」を受けたことには不満があるようです。
 「出入り禁止や、現役部員との交流を禁ずるのは顧問の考えですか」
 「これは、学校の決定であって、顧問の私としては了承するしかありません」
 どうも吹奏楽部OB会には、事実が少し異なって伝わっているようです。また、「高校生が少しくらい酒飲んで何が悪い」という価値観も強いようです。さすがにしんどくなりまして、誰か知っている人はいないかと会場を見渡して気づいたことがあります。吹奏楽部OB会には、「学校の先生・吹奏楽部の顧問をしている卒業生」「プロの音楽家になった卒業生」がいません。OB会には、古めの価値観の方が集っているようです。
 教育や音楽の最前線にいる方はOB会とは距離を置いているのかもしれません。
 OB会も割れているんですね…。
 OB会の分断に、現役を巻き込まないようしないと…です。
 そんなことを考えていると、年配のOBからこんな言葉が飛んできました。
「先日、午後3:30頃、高校の近くを通ったけど、楽器の音が聞こえなかった。練習していないんだろう。練習が足りないから銅賞なんかになるんだ!」
 その年から、一日7時間授業になりました。授業が終わるのは午後4時過ぎです。その時間に楽器の音が聞こえたら、廃部です。
 ちなみに、先日終わったアンサンブルコンテストでは地方大会金賞です(10年ぶり)。
 
 何だか、いろいろどうでもよくなってきました(笑)。
 もちろん、異動願いは提出済みです。
 しかし、異動は叶わず、吹奏楽部顧問3年目に突入します…。

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