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突然吹奏楽部の顧問になる(14)

 2日間にわたる吹奏楽コンクール地区予選は、多くの方のご協力を得て無事終わりました。県大会は2週間後です。
 課外講習と3者面談は終わりました。小論文の個人添削は続きますし、お盆明けの課外講習のテキストの作成は残っています。ただ、コンクール県大会の運営はしなくてよいです。吹奏楽連盟事務局業務はしばしお休み。
 そして、地区予選終了後、最初の練習日、午前中は反省会です。

地区予選銀賞の要因は??

 部員からの意見はこんな感じ
①「油断・驕り」
 過去2年間、一位通過でしたから、予選は大丈夫という気持ちがあったそうです。
②「ライバル校の進歩」
 まず、お隣の公立高校。何せ前のF高校吹奏楽部顧問の先生が異動して、そこで顧問をしています。うまくならないはずがない。
 次に、お隣の私立高校。こちらの「特進コース」は東大合格者も出していますが、「普通科」は公立に進めなかった生徒さんの受け皿。あまり勉強はできない。その代わり、朝から晩まで練習している。夏休みに入ってからは、「地区の音楽ホールを1カ月貸切って毎日練習」しています。そのココロは、「吹奏楽部の音は特進コースの授業の邪魔になる。でも大会は頑張ってほしい。学校でお金を出すから、夏休みは外で練習して」だそうです。
 というわけで、こちらの学校は、夏休みは毎日ホール練習です。
 うらやましい。
③「練習時間の確保が難しかった」
 学校のシステムが変化しています。
 課外など、今までやっていなかったことが始まって、昨年練習できた時間に音を出せなくなった。そもそも、1日7時間授業になって、放課後の時間も短くなった。土曜日は課外講習の日で部活動は原則禁止。一学期期末考査終了後から夏休みになっても、練習できるのは一日2時間程度。
 おかげで、夏休みの宿題はほぼ終わったが、課題曲・自由曲ともに、本番前に仕上げたいと思っていたことにはあまり手がつかなかった。
 
 ここまで聞くと、よく県大会に抜けたと思います。一方でこういう意見がありました。
④「基礎合奏やっててよかった」 
 金賞の学校とは比べ物にならないほど短い練習時間で県大会に進めたのは、「基礎合奏×サウンドを磨いたから」ではないか…。
 これには、コンクールメンバーではなかった部員からも賛同の意見が出ます。2日間、大会運営の手伝いをしながら全団体の演奏を聴いた部員によると、F高校とG中学とは、他のバンドと全然サウンドが違うというのです。
 G中学とは、6月に合同練習をしました。G中学の顧問のH先生はF高校吹奏楽部のOB。このシリーズにしばしば登場する、私によく声をかけてくれる先生。この先生が「基礎合奏」に興味を持ち、合同練習を頼まれました。断る理由はありません。部員によると、G中学とF高校のサウンドは似ているそうです。ちなみに、G中学は中学校の部1位通過、審査員特別賞付き。

県大会に向けて

 県大会までは、毎日練習できます。
 練習時間は、9:00~16:00。合奏は午後。パート・セクション単位でも基礎合奏でサウンドつくりを…という方針が決まりました。
 私からは、審査員の先生がF高校のサウンドを絶賛していたこと、そして、今回の審査員でもあった東京の演奏会でご一緒した先生から、「ユニゾン練習のテキスト」をいただいたので、よければこの練習にも取り組んでほしいことを伝えました。
 地区予選の二日目の昼休み、その先生にこっそり呼ばれたのです。その内容は、「県大会を突破するには、ユニゾンを磨くとよい。そのための楽譜はこれ。やり方は…」でした。泣きそうでした。この話を聞いた部員は感動して泣いていました。

少しきな臭い話も

 その日の夕方、F高校吹奏楽部OBである、G中学のH先生とお会いしました。H先生は、F高校から東京芸術大学・大学院に進み、東京でクラリネット奏者として活動していました。しかし、20代後半に、地元の教員採用試験を受けました。代々先生の家系の長男ということもあったようです。ただ、私が大学院で研究に挫折して教員になったように、どこかで音楽家としての自分に見切りをつけたのかもしれません。そんなこともあってか、私より少し年上のH先生とは何となく気が合いました。
 で、そこでうかがったのはこんな話。F高校に最低点をつけた打楽器の審査員の先生のこと。
「大会2日目、中学校の審査は割れなかった。打楽器の審査員は、G中学に最高点をつけてくれた。F高校と同じサウンドなんだけどね。でね、ここから先は証拠のないこと、僕の妄想として聞いてね。」
「はい」
「F高校、大手資本から『強化指定校の誘い』受けなかった?」
「受けました。明確に断ってはいませんが、大手資本の楽器購入という条件は飲めないので、その話は流れたというのが私の理解です。」
「お隣の私立高校が、最近、大手資本の強化指定校になったのは知っている?」
「知りません。すごいですね。」
「打楽器の審査員ってね、元々依頼していた人がダメになって、仕方なく大手資本に紹介を頼んで来てもらった人なんだ。」
「はぁ」
「わかる??」
「…。わかりますけど、わかりません。そういえば、打楽器の審査員は、お隣の私立高校に最高点をつけていましたけど、でも、私立も上手で、そういう評価を得てもおかしくはないですよ」
「じゃあさ、まっとうな音楽家4名が1~2位をつけたF高校に、最低点がつく要因はある?」
「今日の午前中、まさに部員とそのことを話し合っていましたけど、自分たちにも原因・反省があるという結論です」
「そうか、それが正しい教育だよね。安心した。よかった。」
「何か…あったのですか」
「今の話ね、実は僕の妄想ではない。子供たちや保護者の間に広まっている話なのよ。」

H先生からのお話

 G中学吹奏楽部の出身者は、時々母校に来て、後輩と一緒に練習をしたり、H先生に近況報告をするそうです。
 で、お隣の私立高校に進んだG中出身者が、「うちは今年から強化指定校になった。絶対全国行く」と言ったそうです。その生徒さんが言うには、「F高校が強化指定を断った。それで大手資本が怒って、F高校をつぶすと言っている。それでうちに指定が来て、いま、いろんな人が教えに来てくれる」だそうです。
 まぁ、高校生が言うことって、こんなものでしょう(笑)。
 都市伝説が成立するお手本のような話。当然ながら、H先生もその卒業生のことを少したしなめてくれたそうです。その話を一緒に聞いていたF高校の部員も、一笑に付していたとか。
 H先生は、念のため、お隣の私立の顧問の先生に会った時、この話を伝えたそうです。私立の顧問の先生はとても恐縮して、申し訳ないと言っていたとのこと。ちなみに、強化指定になったのは本当の話。経緯は複雑なのでここでは省略しますが、F高校が関係することはない。
 ただ、その噂が、地区大会銀賞で「信憑性」を帯びたのは事実。
 
 私、音楽は好きですが、部活動としての吹奏楽部は好きではありません。 
 音楽の本質と異なることが重視され、競争と、それに付随する排他性や攻撃性が部員の心を蝕むのです。
 そして、県大会の日がやってきます。
                   つづく…
 
 

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