見出し画像

都内私立高校出身者、地方の公立高校教員となる(4)

 昨今、学校の先生の働き過ぎが話題です。
 その原因に「先生の自爆」という意見もあります。何でもやろうとして残業している、あるいは自己満足のために自ら仕事を増やしているというご意見。否定はしません。しかし、地域・保護者・生徒さんの変化もあります。
 「課題発見とその解決」の言葉を借りるならば、「今までなかった課題が多数生じ、その解決に膨大な時間が必要になった」ということです。
 たとえば、推薦入試で必要な「志望理由書」を先生に書いてもらおうと粘る生徒。もちろんお断りしますが、そうすると保護者さんが出てくる。私で相手にならないと知ると、学年主任~校長~教育委員会と電話する。中には議員とか…。こういうことに対応する時間を、志望理由書の書き方・添削などにあてたいのですが…。

同じ地域の私立が「特進コース」を作る

 私が勤務している地域の進学校をF高校としましょう。 
 F高校は、平成7年頃から発生した「学力崩壊」の影響が大きかったといえます。学校開設以来毎年合格していた地元国立大学への合格者0名という結果は、大きな事件でした。
 そのころ、F高校と同じ地域にある私立G学園が「特進コース」を作りました。G学園は「公立のすべり止め」「受け皿」です。しかし、学年1クラスを「特別進学コース」として募集しました。
 特進コースの生徒さんは部活動に加入しません。その代わり、6時間授業が終わった後、さらに大学受験対策の授業があります。それがおわるのが夕方6時頃。その後、個別指導などがあれば、学校を出るのは夜9時頃という、まさに勉強漬け。
 ただ、「学校×予備校」と考えれば、時間も費用も同じ。自宅から通える。公立高校にはないスクールバスの送迎もある。そして、一期生から1名、東大現役合格が出たのです…。その時、公立のF高校は…ということ。
 私がF高校に赴任したのは、その直後です。

地域や卒業生からの圧力がかかる

 実際、地域の中学生のトップ層は、G学園特進コースに流れました。
 代々医師の方は、長男をF高校に入れるか悩んでいました。ご自身も卒業生で、「勉強は自分でやるもの」という考えをお持ちでも、我が子がF高校から医学部に…と考えると心配になるのはわかります。
 で、「学校は何をやっているんだ」となります。
 その頃、F高校に長く勤務し、地域との窓口になっていた先生方が、「あの先生の授業では○○大学に行けない」と言われ、責任を取らされるように異動していきました。つまり、地域と学校とのショックアブソーバーを失ったのです。そして、地域・卒業生の不安は、ダイレクトに職員室にやってきます。私自身、顧問をしていた部活動のOB会でえらい目にあったのはそのころ(この件は後日、別項で)。
 逆風ってこのようにして吹くのですね。

不登校への対応も始まる

 不登校が社会問題となったのもこのころ。
 F高校では、1クラスに1人は「長期欠席」の生徒さんがいました。いわゆる不登校です。高校ですから、原級留置(いわゆる留年)などのルールがあります。
 当時は、「学校に来れなくなる~出席が足りなくなる~留年が確定的になる~通信・定時制などに転校する」というのが一般的な流れでした。そして、「学校の来ないのはサボリ、本人の心の弱さ」という認識が一般的。それがよいとは言いません。しかし、目の前の現実に対し、早めに見切りをつけ、次の段階に進む、つまり転校して別の高校で卒業する、大検を受けるという発想には合理性がありました。
 このような選択をした場合、F高校を中退した生徒さんが、F高校で卒業した生徒さんと、大学の同級生として再会することが多かったです。
(ちなみに、高校卒業認定に必要な単位数は72単位。
 F高校は週30コマ=年間30単位。つまり高校2年生修了まで進んでいれば60単位ですから、大検では12単位分を取れば高校卒業認定資格を得て大学受験できます。不登校からの中退~大検予備校~大検合格~大学受験~大学入学と進めば、高校の同級生と大学でも同級生で再会が可能。この方が…楽とも言えます)

 しかし、この頃から、「学校・先生に問題があるのでは…」という意見が出てきました。
 「中学でも不登校の人はいたが、卒業している」というのですね。
 義務教育と、中等教育とはルールが異なるのですが、ここでも、中学と高校とを同じものと考える思考パターンが出てきました。そして、思い通りにならないと強い不満を表明する…という流れです。

ゆとり教育もはじまる

 学校5日制の完全実施です。
 一日6時間授業×5日=授業は週30コマです。
 土曜日まであった時代は、最大週34コマ。したがって、各教科の授業時間を減らさないといけない。
 そんな時、学習指導要領の改訂で、「情報」「課題研究」などの新しい教科が必修になりました。
 授業は、一週間当たり4コマ減ったのですが、そこに「新しい教科3~4時間分」が入ってきます。
 となると、元々多かった主要教科の時間数を削ることになります。
 しかし、学習指導要領の改定で「授業時間×学習内容」は減っても、大学入試問題に変更はありません。今までの難易度・範囲・知識・思考が求められます。
 「公立進学校」は、ここで大きな矛盾を抱えてしまうのです。 
                    つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?