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探究学習の必要性を確信した出来事 その1

 教わる立場でも、教える立場でも、「講義型授業」でした。
 つまり、私の思考・授業は「講義型ネイティブ」なわけです。
 大学のゼミや、予備校・教員になってからの小論文指導は「探究型・対話型」になりますが、これは私にとっては第二言語と言えるでしょう。
 また、トップ進学校になると、授業形式は講義型でも、生徒さんが勝手に探究的発想で考察を進めてくれるということもありました。40人の一斉授業でも、大学の少人数的ゼミの空気感になるんですね。そして、ゼミ的・探究的・対話的空気感の強い授業・クラス・学年の方が、第一志望大学への合格者数が圧倒的に多いということにも気づきました。
 であれば、授業・受験課外・小論文でも、探究型・ワークショップ型の授業を取り入れていった方がよいのではと感じました。その一環で、ビブリオバトルなど実施するとこれが結構盛り上がるのです。「アウトプットに飢えている生徒さん」が増えてきているんですね。

◆人口減少という現実
 地方の公立学校では、1990年代の後半からクラス減が顕著になってきました。高校でもクラス減が始まり、統廃合の話も具体的になってきます。
 2006年、夕張市が破綻します。
 夕張市の破綻は「箱物行政の失敗、行政トップの暴走」が原因という報道が多かったという印象があります。しかし、破綻の本質には「人口減少」があります。炭鉱の町だけが人口を減らしているのではありません。地方自治体の多くは、クラス減という形で人口減少が可視化されていたのです。
 子供の数が減るから学校も減る。余った教員は学校以外の職場で働くことになる。たとえば、体育の先生なら公民館などの体育指導員になるということが言われ始めたのはこの頃。また、子供の数が減るので高校も大学も全入になる。国公立大学の統廃合、私立大学の倒産も始まるだろうということも言われ始めました。ただ、これはまだ先のこと…という認識で、危機感はあまりなかったと言えます。そういうことを言うと「ネガティブなことを言うな」と怒られた時代です。

◆1960年代には、現在の人口減少は予想されていた
 「恍惚の人」(有吉佐和子)が出版されたのは1972年。
 認知症をテーマとしたこの作品の中に、将来の人口減少についての言及があります。調べてみると、1960年代に日本の人口動向は調査・分析されており、その予想はほぼあたっていることを知りました。
 高度経済成長期に進学・就職などで多くの人が東京・大阪などの都心部で暮らすようになりました。東北・西日本エリアは人口流出率が高く、とくに日本海側の自治体は「団塊の世代の出生をピークに人口減少が継続している」こともわかりました(個人的には、人口減少率が高いエリアに原子力発電所が多いという印象も持っています)。

◆高度経済成長×人口増加時代の価値観は通用しない
 人口減少に対して、「企業や大学の誘致」「商業施設や観光施設の開設」などを実施している自治体もあります。もちろん、これらには有効なものもあります。ただ「自分の自治体だけ人口を増やす・維持する」という発想はあまり有効ではないと感じました。「日本全体の人口が減る」わけですから、こうした政策は少ないパイを争うだけと言えます。人口減少のスピードを抑える効果はあるかもしれませんが、分母が減っている状況で、分子が増えるとは考えにくいです。
 もう少し踏み込んだ言葉にすると、「人口増加時代の政策・発想はすべて悪」になる可能性が高いです。たとえばオリンピック開催都市では、新設されたスポーツ施設の維持費を捻出するために市民の税金が上がりました。もちろん経済効果はあったでしょうが、それらは人口が減少に進めば「負の遺産」に転じます。丘陵地帯を切り拓いて造成されたニュータウンも同じ。自家用車前提で坂道の多い住宅地は、高齢者には地獄です。
 ではどうすればよいかというと、「人口減少という未来を根拠にした発想」が必要と言えます。「よい高校~よい大学~安定した就職~終身雇用からの年金暮らし」という価値観の終焉ですね。

◆依存から自立へ
 地方自治体の財政は、国からの補助金で支えられています。
 そのためか、自主財源率が低い自治体では「優秀な政治家・行政者とは、国などからたくさん補助金を引っ張ってくる人」という評価・価値観があります。財政の依存率が高いと、属人的な依存心も高くなるんですね。
 こういう発想を、「自主財源率を高めよう」にする必要があると考えました。日本全体の人口減少が進めば、補助金だって減るはずです。補助金依存の自治体に希望ある未来を創造することは難しいのではないでしょうか。
 であれば、「人口減少を根拠とし、自ら稼ぐ自治体にする」という発想の方が、希望ある未来が見えます。
 こうした現実は、未だに人口が増え続けている東京で暮らしていては見えにくいでしょう。しかし、地方では可視化されています。
 「人口減少に伴う社会課題」「人口減少をふまえた未来創造」を探究学習の前提・バックグラウンドとした学びを進める必要を感じました。
  
                   つづく…

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