突然吹奏楽部の顧問になる⑹

 全く経験のない吹奏楽部の顧問になって2年目。
 その年から始まった「民間企業研修」と、「夏の吹奏楽コンクールの日程」とが重なりました。もう少し正確に言えば、研修日程が変更になったことで、県大会と重なりました。
 私は、夏に予定していた研修をキャンセルし、冬休みの研修を申込もうと考えました。しかし、学校長は「研修優先」の考えです。県大会に出た場合どうするかを伺っても「研修優先」。では、指揮はだれが…と問うと、それは吹奏楽部で解決せよという返答でした。

部員と相談する

 わかった段階で、部長などに伝えました。
 要するに、県大会で顧問は指揮できない…ということ。
 つまり、別な指揮者をたてないといけない。それをどうするか、誰にするかが論点です。
 しかし、部員からは別な論点が出ます。
 「研修を変更できないのか」ですね。ええと、できないのです。
 さらに、部員からは、「○○高校でも同じようなことがあって、顧問の先生は研修を変更した」という話もありました。伝手をたどって、○○高校の吹奏楽部顧問の先生にうかがうと、私と同じ研修を申込んでいて、それが変更になったことで、研修をキャンセルし、別な研修を申込んだそうです。
 つまり、研修の変更は可能なんですね。
 ただ、勤務校の学校長の判断・価値観・考えが「研修優先」なのです。
 いわゆる「官僚系」の発想ですね。
 というわけで、部員の不満・不信感は私に向かいます。

プロに振ってもらう?

 たとえば、アドバイスをもらっているSさんにということ。
 しかし、Sさんはすでに業界の有名人であり、立場などもあります。私たちの吹奏楽部を指揮するだけの理由があったとしても、コンクールで指揮をした場合、その結果が「Sさんの実績」として記録に残ります。あまりよい結果ではなかった場合、Sさんのキャリアに影響も出るでしょう。
 合唱の指導をお願いしているトレーナーの方は、スケジュール的に無理。
 楽器の指導をお願いしている吹奏楽部OBの音楽家の方も同じ。OBの方もそれぞれ自分が指導しているバンド、指揮をするバンドがあり、スケジュールや「大人の事情」で無理。
 前任の顧問の先生は、「隣の高校の吹奏楽部の顧問」ですから頼むわけにはいかない。
 そんな時、部員の一人が「音楽大学に進んだ先輩がいる。その先輩が指揮してもよいと言っている」という話を持ち込んできました。
 ただ、現役部員はその先輩のことを知りません。話を持ち込んできた部員は、自宅が近所で昔から知り合いだったようです。

誰が振るか…

 指揮を誰にするかで、部員の意見はわかれました。それはそうでしょう。
 コンクール至上主義的発想が強い部員は、プロに振ってほしいという。
 お金がかかってもいい。大会で勝ちたい。
 バランス型の部員は、学生指揮者でがんばろうという。
 現実の中で可能な発想ですね。
 その中で、卒業生で音大生という選択肢は、ある意味で妥協の接点と言えます。ただ、その人がどんな人で、指揮者としてどういう音を引き出せるかは未知数です。ちなみに、楽器の指導をお願いしているOB音楽家の方に、音大生さんのことをうかがうと、あまりよい感じではない。
 言動などにちょっと問題があって、あまり現役部員とは近づけない方がよい…という感じ。母校のピンチを助けるというよりも、それに乗じて自分の実績を作ろうとしているみたいだよ…と。
 ここまで行きついて、もう一度学校長にお願いしましたが、返事は「研修優先」。
 コンクールの申込〆切が迫っています。
 書類には「課題曲・自由曲・指揮者・学校長印」が必要です。吹奏楽連盟の事務局にも相談して、ルールを確認し、申込段階では、指揮者として顧問(私)の名前を記しました。ただ、県大会に進んだ場合は、指揮できません。その場合、「変更届」を出すという流れになります。
 この段階で、県大会の指揮者はまだ決まっていません。

地区予選は金賞・代表となって県大会へ

 これだけのことがあっても、無事1位通過でした。
 そして、「指揮者変更届」を提出しました。
 指揮者は「学生指揮者」になります。いろいろもめました。部員には学校への不信もありますし、コンクール至上主義の部員には不安を口にする者もいます。それでも、進学校の生徒さんは大人で立派です。大人の理不尽を受け容れたのです。
 現実的には、本番当日だけならスケジュールが空いているというプロの方がいましたが、やはり「練習なし×本番のみ」というのは…という判断は部員の一致するところとなり、この決定となりました。
 県大会の引率は、教頭先生になり、私はコンクールに必要な書類・部員用の参加マニュアル、当日の練習場と移動のためのバスや楽器運搬の手配などを済ませ、部員と教頭先生に引き継ぎ、研修に向かいました。
 県大会当日、研修は17:30に終わりました。本番は15時ころに終わっており、閉会式・結果発表は19:00頃です。結果は銅賞でした。
 (ちなみに、前任の顧問の先生が異動した隣の学校は銀賞で、研修を振り替えて顧問の先生が指揮した○○高校は金賞でした)
 部員は泣き崩れていますし、当日指揮を振った学生指揮者の目は赤く、顔面は蒼白です。
 部員の頑張りを褒め、私が不在であったことを詫びました
 そして、結果を受け止め過ぎず、それぞれ次の目標に向かってうまく切り替えていきましょう…という、そんなことしか言えませんでした。
 一応、教頭先生には、もちろん私が指揮しても銅賞となる可能性はあったわけで、また銅賞という結果を恥じるとかそういう価値観は私にはないことを伝えつつ、「これでよかったのですか…」とだけ伝えました。

 私は、翌日も「民間企業研修」ですから、しばらく部員とは会えません。
 片付けとか反省会とかは部員に任せることになります。
 そして、研修を終え、学校に行くと、あまりよろしくないお話をいろいろな先生方から聞くことになります。                                       
                       つづく…

 
  


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