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「黄昏に消えた言葉」


彼女は静かに呟いた。

「私たちはすごく愛し合っていたし、これからもずっと戻りたいと願っていると思う。
でも、私には彼に連絡する資格がないの。
たくさん傷つけてしまったし、真っ直ぐに愛を伝えられなかった。そして、彼と向き合う努力を怠ってしまった。」


私は、彼女の言葉に胸が痛んだ。あまりにも辛すぎたのだろう。彼女は目の前で何度も過去を悔やみ、彼に会いたいと願い続けているのに、「私には連絡する資格がない」と言い聞かせている。

彼女は、振られた側だった。二人は約1年間付き合い、その後別れた。
忙しい二人にとって、その1年は長いようで短く、思い出はそれほど多くなかった。
しかし、未熟ながらも愛を与え、受け取っていた。傍から見れば、二人は安定していて、このままずっと続いていくものだと思われていた。

別れの理由は、喧嘩や浮気ではなく、ただのすれ違いだった。すれ違ったまま、彼女は別れを告げられ、最後まで彼と会うことはできなかった。それ以来、彼女は彼と一切の連絡を絶ち、トークも写真も非表示にしたという。そんな二人の別れから、もう半年が過ぎている。

今まで大きな喧嘩や言い合いはなかったと彼女は言う。平和な関係に見えたが、それがかえって二人を引き裂いたのかもしれない。
彼女は私にこう語った。
「喧嘩がなかったから1年続いたのかもしれない。でも、言い合いができなかったから、私たちは別れたのかもしれない。喧嘩がない=平和って、そう簡単な話じゃなかったんだね。」

二人にしか分からない小さなズレや、関係の進め方があった。それを話し合うことができなかったのは、お互いにとって大きな負担だったのだろう。好きだからこそ言えない、許したつもりでも許せなかったことが積み重なり、行き先も目的も愛も見失ってしまったのだ。

彼女は、信じられなくなったとき、心から「好き」と返すことができなかったと言う。彼の「好き」に応えられなかったのは、意地を張ってしまったからだ。「このヘルプに気づいて」と心の中で叫びながら、「好き」と言えなかった。本当は、彼が好きで好きで仕方がなかったのに。

しかし、その気持ちは片方だけのものだ。彼はどう感じただろうか。仕方がないことだと理解しながらも、それを受け入れてもらえず、伝えたはずの「好き」が彼女に届かなかった。彼は振り回してしまっている自分が悪いと分かっていながらも、その辛さを抱え続けていたのだろう。そんなことが増えるほど、二人の関係も信頼も崩れていく。そして、修正が効かなくなるまで心の奥で音を立てながら崩れ去っていったのだ。

彼女は、そんな辛い思いをたくさんしてきたのに、今でも過去を引きずり続けている。そして、戻りたいという気持ちを強く抱えている。辛い記憶よりも、幸せで儚い記憶が頭を巡り、あの日々を求めているのだろう。

私は、彼女が彼とよりを戻すことに賛成も反対もできない。どうしたいかは彼女自身が一番分かっているし、どうすれば正解かも彼女が一番理解しているはずだ。それでも、私はもう彼女が傷つくのを見たくない。そして、今の彼女が苦しんでいる姿を見るのも辛い。

もしかすると、彼女はこれを乗り越えなければならないのかもしれない。正解なんてどこにもないし、連絡しないことが正解かどうかも、まだ分からない。だから、私は最後に彼女に問いかけた。

「本当に、連絡しなくていいの?」

彼女は遠くに沈む夕日を見つめながら答えた。

「いつか、してみようかな。何年も先の話になるだろうけど。」

私は、二人の物語がここで終わってほしくない。この先、二人の幸せが待ちわびていますように。

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