見出し画像

絶品だった夏の足音(エッセイ)

祖母の赤紫蘇ジュースは絶品だった。

けれど、そんな絶品だった祖母の赤紫蘇ジュースは、もう二度と飲む事は出来ない。

赤紫蘇ジュース飲みたいな〜なんて思った私がそんな気分になった時に作り始めるのが、自分で作る赤紫蘇ジュースだ。

 私が祖母の赤紫蘇ジュースと出会ったのは、小学生くらいの頃だったと思う。どんな経緯で赤紫蘇ジュースを飲む事になったのかは覚えていないものの、祖母の赤紫蘇ジュースは本当に美味しかった。

一口飲むと、紫蘇の香りが口の中に広がり鼻に抜けてくる。そして舌が感じるのは、紫蘇の爽やかな香りと合わさるような少し甘みの強い味。

この甘さと紫蘇の香りのハーモニーが小学生ながら私は癖になり、母が祖母から貰ってきたりしたら、ゴクゴク飲んでいた。

成長するにつれ、赤紫蘇ジュースからは遠ざかり、思い出すことはあったけれどまさか自分で作れるとは思っておらず(笑)作れると知った時は衝撃と嬉しさでウキウキ乱舞した。

6月頃からスーパーや直売所に赤紫蘇は並び始める。私は赤紫蘇を見つけたら手に取り、家で静かに、赤紫蘇ジュースを作り始める。

茎から葉をとる作業…プチプチ、プチプチ。

その量の多さに、面倒臭い……という気持ちが迫り上がってくるのを何とか無心になる事で抑え、これをクリアすれば赤紫蘇ジュースが飲める。飲めるんだぞ〜!と自分に暗示をかけながら何とか茎から葉を外し、水を沸騰させた鍋の中へ赤紫蘇を入れる。

赤紫蘇の色は、直ぐに鍋の中に溶け込んでいき、鮮やかだった赤い葉の色は、緑の葉の色へと変化する。

絞れるだけ煮出した紫蘇の葉を取り出し、そこに砂糖とレモン汁を加える。

レモン汁を加えると、酸の力により、くすんでいた赤色は鮮やかな赤色へと、たちまち変化していく。私は、そんな色の変化を見るのが毎回赤紫蘇ジュースを作った時のちょっとした楽しみでもある。

そして暫く煮詰めれば、赤紫蘇ジュースのシロップの完成だ。

煮沸した瓶の中に赤紫蘇のシロップを入れ、それを冷ましながら、作りたての赤紫蘇のシロップと水を混ぜ、そこに氷を入れ、出来立ての赤紫蘇ジュースを飲んでみる。

私の作った赤紫蘇ジュースも美味しいけれど、やっぱり、祖母の作った赤紫蘇ジュースには全然及ばないし、味も祖母のと比べて薄く感じる。

これもこれで美味しいのであっという間に飲んでしまうのだが、それでも、祖母の作った、あの日の赤紫蘇ジュースには敵わない。


赤紫蘇ジュースを作った年は、必ずそんな事を思うのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?