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銀河売りの青年【短編小説】(シロクマ文芸部)

銀河売りに出逢うと幸せになれる。そんな言い伝えが私の街にはある。でも、それは所詮言い伝えで、最近では銀河売りを見たという噂なんて一回も聞いたことはないし、私も信じてはいなかった。

ある晴れた静かな夜。星は満天に輝いている。でも、街は星の灯だけで程よく暗くとても静かな夜だった。今の季節は少し肌寒くなってくる季節。私は薄手の長袖のセーターを着て静かな夜の道を散歩していた。すると道の分かれ道に誰かがひっそり佇んでいる。普通なら怖いと思うのだろうが全く何も思わず、人が佇んでいるほうへと導かれるように歩を進めていった。
「あの、大丈夫ですか?何処か具合が悪かったりしますか?」
背の高い街灯が一本だけ立っている下に、その青年はいた。年は10代後半から20代前半くらい。私と同世代のように思える。髪はグレーで前髪に少し髪がかかっていて、後髪は肩より少し短いくらい。黒いマントを羽織っていて足のラインがしっかりわかる黒いパンツを履いている。他の人と唯一違うところは肩に白銀色のショルダーバッグを背負っている所ぐらいだ。こんな目立つバックを背負ってる人はこの街にはなかなかいない。
「…僕を見て、怖くはないのですか?」
「怖い?どうしてですか?貴方は不思議な人だなとは思ったけど、怖い人ではないでしょう?私、人を見る目はありますから」そういうと、その青年は静かに、でも何処か嬉しそうに笑った。俯いて笑った顔が何処となく儚く、優しく、でも綺麗で色っぽかった。
「僕はいつもここに立っていましたけど、僕に話しかけてきてくれた人はとっても久しぶりです。」
「…、とっても?いつもここに立ってる?」この青年は何を言ってるんだろう。私はもしかしたら、厄介な相手に話しかけてしまったんだろうか。今更ながら話しかけてしまったことを猛烈に後悔し始めた。やっぱり、逃げようか。
そう、思っていたとき、青年が話しかけて来た。
「聞いたこと、ありませんか?銀河売りの言い伝え。会えば、幸せになれるって」
「あー、聞いたことはありますけど、それって迷信ですよね?昔の事で今とは時代も環境も違うし。銀河売りなんて、いませんよ」
私が言い終わるとすぐ、青年は言った。
「いいえ、居ます。銀河売り」
「えっ?」
「言ったでしょう。僕に話しかけてくれた人はとっても久し振りだって。貴方は僕に話しかけてくれて、今でもこうして話してくれている。僕にとって、これ程幸せなことはないんです。特殊な事を任命されている以上、仕方のないことなんですけど、でも、やっぱりたまには誰かと他愛もないお話をして、自分のできることをしてあげたいじゃないですか」

「あの、さっきから何を言ってるんですか?」
「僕は、この街の銀河売り。何年も何年もただここに居た。そして、話しかけて来てくれた人には僕の力をあげる。この力が尽きるまで、僕は僕の使命をまっとうする」
そういうと、青年は静かに近寄ってきて私の頬に優しくキスをした。
私は逃げることもできず、ただこの不思議な感覚を受け入れるだけだった。

「僕ができることはここまでです。あとは貴方が選んでいく。進んでいく。止まってもいい、迷ってもいい。でも、本当に困ったとき、苦しんだとき僕を思い出して下さい。きっと、今のキスが貴女を助けてくれるはずです。そして、僕と貴方が会うことはもう二度とありません。
ありがとう。心優しい女性(ひと)貴方に幸せがありますように。」
そう言い終わると、彼はそっと姿を消した。銀河売りという名に相応しい、広く深く、大きいモノを私の頬に残して。

私は一体どのくらいの時間ここにいたのか。でも、確かに私は会った。言い伝えのその彼に。
「…………、銀河売りって、本当に居たんだ。だったら、私、幸せになれるのかな」
私のこの不思議な出来事は、私だけのもの誰にも言わないし、伝えない。
私だけの秘密。

けれど、この先きっと、ずっと思い出す。銀河売りという言い伝えの青年に会ったこと。彼は彼なりに彼の使命を果たしていること。
彼は、何かを犠牲にしながらも、幸せだろうか。幸せだと感じることはあるだろうか。
私は今この時、確かにもらった。
貴方からの不思議な幸せを。


拙いですが、参加させて頂きました。
ここまで読んでくださりありがとうございました。

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