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【短編小説】誰かの特別になりたい

「私、彼氏出来たんだよね〜」

 土曜日の昼下がり、ファミレスでアイスを食べながら目の前の友達はそう言った。
「そっか、おめでとう」
 なんと反応するのが正解なのかも分からず、私は適当に返事を返した。

 まただ。この報告を聞くのはこれで何回目なんだろうか。

 中学生にあがってからというもの、私の周りは次々と彼氏や恋人ができ始めた。今まで恋愛に興味が無さそうだった友人も、誰かに片想いしては勝手に失恋していた友人も。皆こぞってネットなどで出会った人と付き合ったり、同級生と付き合ったりしていた。
 一方で私は全く彼氏が出来なかった。彼氏が欲しいという願望はある、中学生にあがってからメイクを覚えて垢抜けを頑張ってみたり、真面目に勉強したり、委員会に積極的に入ったり、ネットで相手を募ってみたりもした。でも出来ない。私には全く彼氏が出来なかった。


 なんで、私には出来ないの?私は誰よりも頑張った筈なのになんで?
なんで真面目に勉強している私じゃなくて、いつもテストが赤点の友達が選ばれるの?

なんで真面目に委員会の仕事してる私よりもいつも仕事をサボる友達が選ばれるの?

休日は1時間もかけてメイクを頑張っている私より、なんでノーメイクの友達が選ばれるの?

私だって、誰かの特別になりたいのに。

 そんな事を考えている間にも目の前の友達は新しく出来た彼氏の惚気話を披露していた。


嫌だ、聞きたくない。やめて、やめてよ…。

そう心の中で唱えてみても友達に届く筈が無い。
私はいつか自分も誰かの特別になる事を夢見ながら、今日も友達の退屈な惚気話を聞くだけ。

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