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インサイトは見つけるというより創らなければならないもの

マーケティング界隈にはインサイトという言葉があります。抽象的でとらえにくいワードですので、大学などの教授陣はこの言葉は知ってはいる?ものの自分たちで使おうとしていません。
それくらい定義が抽象的で説明しにくいものではあります。
しかし、ビジネス上ではインサイトから新たな商品開発や価値創造といったことの重要性がいわれるようになり、インサイト産業なんて言葉もでてきました。
そこで、あらためてインサイトについて考えていきたいと思います。

インサイトを見つける、という表現の違和感


まず、インサイトは「本人が自覚していない意識」と定義づけています。
本人が自覚していないため、インタビューの発言そのものがインサイトとなることは基本的にありません。
インタビュー調査などの依頼のオリエン資料にはインサイトを発見することを目的としている内容をちょくちょくみかけることがあります。実際にお話しするとインサイトと表現していますが、ニーズと同義で表現している場合が結構あります。特にかまわないのですが、潜在している意識の意味でインサイトと言っている場合は、インタビューで出てくることは基本的にはなくて、インタビューの内容をヒントに創り上げていくものですと説明をするようにしています。
さらにいうと、インサイトを創り上げるための情報としては、インタビューだけよりも観察情報など言語以外の情報とセットのほうが適しています。

海面に潜む意識は探したって見つからない、ゆえに創る(仮説推論)

よくあるインサイト説明図

氷山をつかい、海面上が顕在意識、海面より下の部分を潜在意識と表現し、インサイトの説明はよくされています。
パッと見そうだよなと思うし、これ自体はそのとおりだと思います。しかし、海の下の部分から活用できるインサイトを見つけることなんてできるでしょうか?あてずっぽに潜って探したらものすごい時間がかかりそうです。
つまり、探査機である程度調べたら自分たちで仮説を推論していくしかないのです。これがインサイトを創るということになります。探査機の役割は調査ですかね。

インタビューでは何を聞く?


定性調査はインタビューが主流

インタビューは、各企業の扱っている商品やサービスがテーマとなることが多く、そのテーマに準じてインタビュー内容も“現在の商品への態度”や“過去の利用経験”などを聞いていくことが主流です。もちろん、そこは重要なのですが、インサイト探索においては別の視点でインタビューを行う必要があります。
それは、その人の生い立ち・歴史です。一見、テーマと関係ないことなので、そこに時間を割くことに対し否定的な反応があることもありますが、“人を理解する”上で、その人が育ってきた環境や経験してきた過去の記憶をたどることはインサイトにおいては意味があります。特に日本人は宗教のような頼るものがない人が多く、自身が接してきたモノ、コトから自身の価値観形成に強い影響をうけていると考えています。
人は環境に左右されるという言葉もありますが、まさに個人個人は無自覚かもしれませんが、環境が価値観や考え方を形成する材料となっているでしょう。行動経済学でもナッジという考え方は環境面の創り方を唱えています。すなわち無自覚に環境に依存しているということが学問の分野でも証明されています。
ものづくりのデザイン起点でもアフォーダンスやシグニファイヤといった人をデザインにより行動を促す考え方があります。ドアのデザインで押して開くものなのか、引いて開くものなのかパッと見て人が判断できることなどのが代表例です。どちらかわからないものはいいデザインとはいえません。


人は環境の影響に左右される

訪問観察は生活環境の観察である


生活環境の観察がインサイトには重要


環境においては、インタビューよりも実際に見る(観察する)ことが効果的です。
観察調査というと、よく“行動”観察という言葉を耳にすることが多いのではないでしょうか。行動観察は人間の行動の不具合を見つける目的では有効ですが、インサイトづくりにおいては自宅を訪問し、その人の普段の生活環境を観察することのほうに意義があります。(行動観察がダメといっているわけではありません)
どんな家で生活をしているのか?玄関やリビングに何を飾っているのか?ものが多いのか少ないのか?どのような色合いにしているのか?どんな本・漫画を読んでいるのか?どんな匂いがするのか?観察は言語以外の情報量が圧倒的に多く、かつ、この情報は受け手(観察者)がどう受け止めるのかが影響します。

インサイトは調査によるインプット(刺激)と自身に内在しているものが絡み合うもの


観察情報はインタビュー情報と比べると圧倒的に情報量が多いのですが、言葉で説明してくれるわけではないため受け手の解釈に依存します。
ここでよく調査後の会話の中ででてくる“気づき”について説明したいと思います。インタビュー調査終了後のデブリーフィング(振り返り)で参加者の気づきとして話をする場が設定されます。この気づきとはインターネットの辞書で確認すると「それまで見落としていたことや問題点に気づくこと」とあります。気づきの使い方として概ねそうだろうと思います。ここにある見落としていた、問題点に気づく、というのは自分自身がそこに気づいていなかったことと言い換えることができます。すなわち、自分自身の意識も関係していることになります。何気なく使用している“気づき”とは自分自身に内在しているものであると認識する必要があります。そこを触発されて気づきとして成立するのです。
 

共創型でインサイトを創り上げる


ネオマーケティングではインサイトはワークショップで創造していくものと提唱しています。なぜなら、インタビュー情報や観察情報は定性情報であるため、受け手の気づきが重要なことは前述のとおりですが、さらに同じ情報でも人によってでてくる気づきが異なることが多々あります。異なったまま放置していては前に進めないですし、しっかり気づきについて対話をして合意形成をしていく時間と場が必要となるからです。ワークショップはそういった場として非常に有効なのです。

この様々な気づきと対話を通じてインサイトを創り上げていくことが、インサイトの確からしさを向上させていくことにつながります。
モデレーターやリサーチャー1人が分析するのにはインサイト創造においては限界があります。実際にモデレーターが作成したレポートに記載されているインサイトとワークショップで創り上げたインサイトでは視点の広さで大きく違いがでます。これは個人の限界であり、近年必要と言われている多様性の意義とも近いものがあります。様々な視点で調査情報を解釈し対話をすることで深耕させていくことや、広げることができるということです。

インサイト起点による商品開発


多くの企業がインサイトへ関心を示しているのは、目的が競争優位な商品やサービスの開発となります。すなわちインサイトを起点とすることで、これまでにない革新的な商品開発を実現することができると考えているからです。インサイトは世の中に顕在化していないものだとすれば、確かにこれまでにないものづくりにおいては、効果を発揮することでしょう。

おまけ


インサイト(insight)は日本語にすると洞察(力)、モノゴトの本質を見抜く力と訳されます。では、もう一歩踏み込んで「洞察」とは何かを調べてみます。
洞察 → 物事を観察して、その本質や、奥底にあるものを見抜くこと。見通すこと。
とでてきます。
すなわち、言語“だけ”ではわからない・判断が難しいことを観察を通じて“本質は何か、奥底にあるものは何か”を導いていくことが洞察となります。インサイトはそういった意味では言葉どおりともいえます。

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