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星新一『ボウシ』読書感想
ショーショート作家として有名な星新一さん。
短いながら、色々と考えさせられる作品が多いですよね。
今回は、『きまぐれロボット』に収録されていた『ボウシ』の感想を書いてみようと思います。
作品紹介
お金持ちのエヌ氏は、博士が最も優秀と自慢するロボットを買入れた。オールマイティのロボットだが、時々あばれたり逃げたりする。ひどいロボットを買わされたと怒ったエヌ氏は博士に文句を言ったが……。
ショート・ショートでは第一級の作者が綴る、大人と子供のための童話。表題作他35編を収録。
こんな人におすすめ
○さくっと物語を読みたい人
○SFが好きな人
○くすっと笑える作品を読みたい人
感想(※以下ネタバレを含みます)
貧しい老人
物語は、1人の老人が自分の家に帰ってくるところから始まります。
「盗まれて困るような品などなにひとつない。また、出迎えてくれる者もなかった」
さらっと書かれていますけど、侘しい言葉ですよね。静まり返った部屋で1人佇む姿が目に浮かんで、胸が締め付けられました。
無名の奇術師である老人の収入は、ほんの少し。この日も、一日中立ち続けてもらえたお金は食べ物とお酒に消えていきます。
ひとりごと
「むかしはわたしの手品を、人びとはずいぶん喜んでくれたものだ。しかし、このごろの人はちっとも感心してくれない」
ああ……切ない……
読みながら身悶えましたね。
老人は続けます。
「あしたはまた、遠くの縁日に出かけなくてはならない。さてひと通り練習してから眠るとしようか」
ここ、すごくないですか?
老人の真面目な性格が垣間見えた気がしたんですよね。
私なら、見向きもされない日々が続いたら確実に不貞腐れます笑
手品なんかやめて、他の仕事を探すかもしれません。練習などもってのほかです。
しかしこの老人は違うんですよね。手品に向き合う直向きな姿勢に、なんだかはっとさせられるものがありました。
ミーラ星の宇宙人
それを見ていたのがミーラ星からやってきた宇宙人たちです。
少し話は逸れますが、星新一さんの作品には宇宙人がお馴染みですよね。
私は「宇宙人を信じている」とまでは言いませんが、「もしいるなら話してみたいなあ」くらいには思っています。
なんだか夢がありますよね。
大好きなさくらももこさんが表紙を手がけた『アミ 小さな宇宙人』という本を一度だけ読んだことがあって、その影響もあるのかもしれません。残念ながら、今は絶版になってしまいましたが。
話を戻します。
宇宙人たちは、老人の手品を見て目を丸くしました。
「あれはなんでも出てくる装置だ」
「ぜひ、ミーラ星に持ち帰りたいものだ」
手品なんですけどね笑
感動している宇宙人を見ていると、老人の努力が報われたような気がして少し嬉しくなりました。
宇宙人の同情
宇宙人たちは、腕ずくでボウシを取りあげてしまいました。
老人はたまったもんじゃないですよね。いきなり商売道具を奪われて、訳もわからないまま泣き出します。
ここで、宇宙人たちが老人に同情するんですが、それがまた可笑しいんですよね。
「悲しんでいるぞ。かわりになにか置いていってやるとするか」
「そうだな」
このやりとり、ちょっと笑ってしまいました。コントみたいな面白さがありますよね。「無理やり奪っておいて、そこは良心痛むんかい」みたいな。
エメラルド
「こんなものしかないが」
そう言って宇宙人がポケットから出したのは、なんとエメラルド。
すごいものが出てきましたね。ボールくらいの大きさですから、かなりの価値があるはずです。
それを見ていたもう1人の宇宙人がこう言うんですね。
「なんだ。このあいだ寄った星に、たくさんころがっていた石ころじゃないか。そんなものでは悪いだろう」
いやいや。どうぞ置いていって下さいという感じです笑
結局、宇宙人たちはそのエメラルドを置いて急いで帰っていきました。
価値について
とても感慨深い話ですよね。宇宙人にとってはただの石ころだったものが、地球では大金になる訳です。
昔読んだ『サバイバル』という漫画にも、似たような描写がありました。世界的な地殻変動による巨大地震に遭遇した主人公・サトルが、火を起こすために紙幣を燃やすシーンがあるんです。
火の中にガンガン万札を入れていくシーンは、とてつもなく印象に残っていますね。同時に、「ものの価値ってこんなに脆いんだ」と思った記憶があります。
前述した「エメラルド」「紙幣」は物質的なものでしたが、価値観に対しても同じことが言えるんじゃないかと思うんですよね。
ある人にとってはなんでもないような出来事がある人にとっては幸せだったり、ある人にとっては大切な言葉がある人にとってはただの文字の羅列だったり。
その価値を決めるのは、自分自身でしかありません。それすらも、状況によって変わっていきますよね。
私はここ数年で、色々なものへの価値観が変わりました。
少し前までは「安定した職について、お金を貯めて、そのうち誰かと結婚して、子供を産んで、産休をとって、復職して、定年退職して老後をゆっくり過ごす」ことが幸せだと思っていました。
もちろんそれも幸せです。しかし、幸せの形はこれだけじゃないと思うようになったんですよね。むしろ、今までこの形に囚われ過ぎて、息苦しかった部分もあるように思います。
特に仕事ですね。私は少し前まで医療系の仕事をしていたのですが、それは「安定していたから」だったんですよね。特にやりがいもなく、慌ただしく過ぎていく日々の中で、自分の気持ちを後回しにしていました。
今は仕事から離れてみて、穏やかに過ごす時間を大切にしています。次にどんな仕事に就くかは分かりませんが、もう「安定している」ことにこだわらずに自分がやりたいことをやってみようと思っています。
色々な気づきを与えてくれた『ボウシ』には感謝の気持ちでいっぱいですね。他の作品も、また読んでみようと思います。
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