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「炎上甲子園」第3話〜撮り鉄、命を救う〜

さて、炎上甲子園、最後の参加者を紹介しよう。
彼の名は石渡道夫(26歳)。九州エリア代表だ。
部品メーカーに勤めていたが、
東京本社から福岡支社に転勤してから土地が会わず、
退職をし、失業保険で暮らす日々。

彼はネットもニュースもほぼ見ない、
鉄道写真にしか興味がない、生粋の撮り鉄だ。
だから彼の母・石渡花子がUbabarEatsとして
炎上していることを彼は知らない。

だが彼の父・幹郎はコロナ禍でリストラにあい、
求職中とは知っていた。
そろそろ東京へ帰り、職を探し、
両親を支えようと思っていた矢先に
炎上甲子園のオファーが届いた。

道夫は悩んだ。
10億円もあれば、家族みんな経済的に困らないだろうし、
また、道夫は法を犯しても撮りたい鉄道写真があったのだ。
道夫は決心した。

九州の豪華寝台列車が年に1回だけ、
趣のある駅「南風駅」に到着するタイミングがある。
その到着シーンを、
線路に侵入した上で、
最高のアングル、
最高の迫力で撮影しよう
と。
そして、線路への侵入を結果的に炎上行為にしよう
と。

豪華列車と南風駅がシンクロする写真、
その写真が撮れるタイミングは
明日の7:45だった。
時刻は深夜24時30分。
道夫は侵入経路を確保すべく、
急いで現地に向かうことにした。

同時刻、女子高生の知花夏美は遺書を書いていた。
入学した高校に馴染めず、
やがてイジメに発展し、教師に相談するも、
それがクラス中に露呈してしまったのだ。

追い詰められた夏美は、思った。
どうせ死ぬなら、
ニュースに取り上げられるような死に方をしよう。
あの豪華寝台列車に飛び込んでやろう。と。
列車が南風駅のホームに到着するのが7時45分の予定だ。

その日の6:30
すでにホームの先端には撮り鉄が溢れる。

そのホームのベンチには夏美がうつむいて座っている。

道夫は昨夜のうちに線路内に侵入できるように
有刺鉄線にペンチで切れ目を入れ、
あとは引き剥すだけの状態にし、
線路脇の道路で待機している。

7:00
撮り鉄たちの人数は増え、醜い小競り合いが始まる。

夏美は最後に好きなものを、と自販機でココアを買った。

道夫は線路脇の道路で待機。

7:30
撮り鉄たちを規制するために警察たちが出動。

夏美は遺書の入ったカバンをベンチの下に置いた。

道夫は線路脇に有刺鉄線の切れ目を確認

7:40
何人かの撮り鉄が公務執行妨害で逮捕された。

夏美は親に感謝のメッセージをスマホに綴っていた。

道夫は目立たぬように有刺鉄線を引き剥がした。

7:44
ついに電車が目視できる状況になった。

撮り鉄たちはシャッターを押し出した。

夏美はホーム先端に小走りに走り出した。

道夫は線路内に侵入し、
豪華寝台列車が走る線路の真ん中に立ちはだかり、
最高のアングルでシャッターを切り続けた。

その場にいた撮り鉄たちと、ホームにいた乗客たちは、
一瞬、道夫が何をしているか分からなかった。

7:44:10
豪華寝台列車の汽笛と急ブレーキ音がけたたましくなった。

夏美はホーム先端に向けて走り出している。

道夫はシャッターを押し続けいる。

7:44:30
夏美はホーム先端から線路に飛び込もうと、

撮り鉄たちを押しのけた。響く撮り鉄たちの怒号。

道夫はシャッターを押し続けいる。

7:44:50
夏美はホーム先端から線路に飛び込んだ。

撮り鉄の怒号は悲鳴に変わった。

道夫はシャッターを押し続けいる。

7:44:59
シャッターを押し続ける道夫のカメラに、
落ちてくる夏美が収められた。

道夫は一瞬、何が起きたか分からなかったが、
本能的にシャッターを押し続けた。

7:45:00
夏美は線路に落ちたが、
その眼の前で、豪華寝台列車は停まった。

道夫が線路に不法侵入したから、
豪華寝台列車は停まったのだ。

予期せぬ形で、道夫は夏美の命を救った。

この出来事も瞬く間に「炎上」した。



エピローグ
ビリオネアたちは今回の炎上甲子園に満足していた。
各炎上は好結果に結びつき、
世間をにぎわすには十分だった。
さて、肝心の優勝者は・・・

石渡道夫は不登校児・学生を豪華寝台列車の旅に招待をし、
鉄道の素晴らしさを伝えることにした。そこには夏美もいた。

花子は道夫の出資により、
食堂車を改装して作った「子ども食堂“ウーババー”」を開店。
名物ママとして人気になり、
夫・幹郎が仕入れなど切り盛りをサポートしていた。

関わる人みんな、笑顔であった。


第1話はこちら

第2話はこちら

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