実演販売、担当、元引きこもり

 さぁ初出勤の私、野口宏昌は引きこもりの経験を経て今、正に一皮剥けようとその瞬間が今訪れようとしています。それはさながら蝶が蛹の背を割り出てくるが如く、完全変態の最終形態まさしく私そのもの言い得て妙でございます。自分自身に妙と使うのは大変おこがましい行為ではございますが、あがり症の私がこの状況下において冷静でいられるはずがないわけであります。さて、この妙という言葉ですが昔はかなり高い評価を指し示す言葉でありました。微妙という言葉を美味しいという意味で使っていた時代もありました。今では誤解されかねない表現になってしまいますが。このように同じ言語を使っていてもなかなか本意というのは伝わりにくいものなのです。そこで私は言葉を重ね、心を重ねなんとかこの瞬間初めて出会ったあなたに一言でも想いが伝わって欲しい。その一心で過ぎ去っていく貴方へ、貴女へ声をかけているのであります。さぁ、そこの足を止めてくれた少年は、私の言葉を捲し立てる妙技に魅入られたのか、はたまた変なおじさんと見られているのか。変なおじさんと見られたからなんだい、こちとら志村けんリスペクトしてるんだい。と、こう言い放ち威厳を保とうとしているわけでございますが、さぁ、お母さんいかがでしょう!こんな子供にまで言い訳がましく御託をべらべら並べる人の言うことなど信用ならないとは思えども、しかしながらお母さん、お母さんの想い、ご主人やお子さんにきちんと伝わっているのでしょうか。ご主人から謝罪、お子さんからのお礼きちんと貰えているでしょうか。あえてそのお気持ちを便箋に認めてみてはいかがでしょう。こちらのペン、グリップ部分が木製になっており暖かみを感じることができます。家族間でのやり取り日々の会話に加え、普段話すには小っ恥ずかしいような気持ちを私のように冗談を交えながらでも伝えてみてはいかがでしょう。言葉は相手がいれば伝えられるんです。本当に伝えたいことは今しか伝えることはできないんです。相手がいなくなってからでは遅いんです。私にはもうできないことなのです。ですから、皆さん、、、悔いが残らないよう、いや、できるだけ悔いを残さないように、真剣に真正面から家族と向き合ってください。温かみがある木製グリップのペンとこの便箋セットで販売中です。数量限定ですのでこれを機に是非ご購入の検討のほどよろしくお願いいたします。今がチャンスです。
 大喝采の嵐だった。一目瞭然、誰の目から見てもこの場は完全に私が支配していた。実演販売では異例の100人を超える観衆が集まり、中には涙を流す者もいた。歓声が鳴り響く中、とある声が私の耳に飛び込んできた。
「よくやったわ、宏くん」
「お前さんはね本当に立派な息子に育った!おめでとう!」
私は両親の胸で泣きじゃくった。本当にここまで頑張ってきてよかった。これからもっと
「ちょっと待て!どうゆうことだよ!」
なにやら罵声らしき声が飛んできた。
「あんた両親はもういないんじゃないのか!?」
はあ?なにを言っているのだ彼らは。私は一言もそんなことは言っていない。会場がザワつき始めた。
「もう想いを伝える相手がいないって言ってたじゃねぇかよ!」
あーそのことか。本当に言葉というのは難しい。あれだけの尺を言葉を使おうと本意というのは伝わらないものなのだとはっきりわかった。
「私が感謝をもう伝えられないのは、引きこもりの時ずっと一緒にいてくれたユズハちゃんです。あのー知ってます?魔法少女ライダー戦隊プリウーマンのキャラなんですけど、あ、持ってたのは主人公の幼馴染のぬいぐるみなんですけどこのぬいぐるみの衣装が実は(以下続く)」
 ペンと便箋の売り上げは2セットであった。

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