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ゴメが啼くとき(連載10)

 義父は、近くの国研牧場に勤めていた。
 その傍ら、畑仕事や乳牛の世話と、よく働く人だった。酒はやらない。甘いものが好きだった。文江は、そのような義父に好感を持った。

 文江は、やはり実家はいいと毎日感じていた。気兼ねすることは一切必要ないのであった。

 ある日、文江はハナに弟妹ていまいの事を聞いた。
「かあさん、四人はどうしているの。早く家に戻ってこれないの」
「四人が世話になっているところの事情がそれぞれあってね。すぐに戻れないのよ」
「でも、みんな辛い思いをしているでしょ?」
 実母は、沈痛な表情を浮かべた。そして、
「文江、もう少し待っててね。今年中には皆帰ってくるから」と言った。

 実母のハナは昔美人で鳴らした人だったらしいが、気性の激しい人で、文江の実父との折り合いが悪くなり別れてしまったのだった。
 実父は家も子供たちも捨て、札幌のある会社に勤めるため、歌別を去っていった。とハナから聞いた。

 文江はそういう母親の血を引き継ぎ、気性の激しい、負けず嫌いな性格だった。
 目黒の奉公先やフンコツ(白浜)での生活では、そのような本来の気性を出せる余裕などなかった。
 また、他人の家の飯を食うことがどれほど大変なのか、身に染みて感じていたから、弟妹たちの苦労が手に取るように判るのだった。

 文江は、乳牛の世話や畑仕事に追われる毎日だった。
 下村先生からもらった絵本『孝女白菊』だけは何度も眺めた。文字はところどころ理解でき、絵本の中の挿絵などで大まかなストーリーが、判るようになった。
 

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