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ゴメが啼くとき(連載26)

 夕張は雪の中だった。
 北海道の奥深くに位置する夕張は、冬の寒さは過酷であった。

 文江は、義兄の子供たちと分け隔てなく接した。そして徐々に子供たちは文江に慕ってきた。義兄の子供たち三人は一番上が女、下が二人の男の子だった。
 長女が江美、長男が博隆、一番下の男の子の名前を敏孝といった。
 その敏孝は小さい時から悪さをし、学校でも評判の悪童だった。
 最初は文江を斜に構えて睨んでいたが、分け隔てなく皆を可愛がる文江の態度に、徐々に軟化していったのである。
 その敏孝は高校を卒業して、一旦は東京にいる実母のところに行くのだが、ほどなくして夕張に戻った。しかし、友達の運転する車に同乗して、交通事故で亡くなってしまった。敏孝の遺骸に縋り付き、我が子のように文江は泣いた。
 長男の博隆は高校を卒業して、夕張炭鉱に勤めた。その後結婚して、苫小牧で所帯を持った。仕事もタクシー運転手となった。しかし離婚し、元々寂しがり屋だった博隆は、深酒が過ぎたらしく、入院先の病院で亡くなった。
 長女の江美は、東京暮しだ。
 義兄の三人の子供たちは、母親代わりの文江に大層感謝の念を抱いたのである。
 義兄の春男は苫小牧で、肝臓がんで亡くなった。
 まだ六十四歳の若さだった。

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