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熊雄(連載⑭)

 このような事件があってから、朝日動物園が全国的に有名になった。
 また、飼育員の間で園内の動物が生き生きと過ごせる工夫をしようと様々な提案があり、園長はそれを取り入れた。
 ここ数年、入園者が落ち込んでいたが、これを契機にその後、入園者はもちろん園内の動物たちも楽しめる日本でも人気の動物園となっていったのである。
 
 熊雄は一年間の臨時職員を解かれ、正式な飼育員として、朝日動物園で勤務することになった。
 新たに担当する動物は、ペンギンたちであった。女性の飼育員と一緒に、キングペンギン十六羽の世話をすることになった。
 ある冬、ペンギンを一列に並べ、散歩をさせることを定例会議の場で園長から提案があった。
 園長は、
「熊雄君、八重さんと一緒にチャレンジしてみるか」
「はい、・・・」
「熊雄君やってみる? ダメもとで」
 八重が熊雄に顔を向け、同調するように促した。
 他の飼育員からも、
「大変だぞ、しかし成功したらすごいことになるぞ。元々ペンギンは人懐こい性格だからな。俺たちも応援するからやってみたら」
 それで決まった。
 次の日から、ペンギンたちの猛特訓が始まった。最初はエサで釣ったり、散歩コースに縄を張って通路を確保したり、毎日毎日一列縦隊の歩行練習を行った。最初からうまくいくはずはない。ペンギンたちは、唯我独尊の誰かさんように、熊雄と八重の指示通りには動いてくれない。
 熊雄とペンギン達だけになった時、
「熊雄、僕らは毎日同じことの繰り返しで、飽きちゃった。他に面白いことは無いの」
 ペンギンのボス格のアラタが熊雄に話しかけた。
「頼むからもう少し我慢してね」と熊雄がお願いした。
「熊雄と八重が困っているようなので、僕何とかみんなに協力するように頼んでみるよ」
「ありがとうアラタ。恩に着るよ」
「熊雄、気にしないで。僕たちはこの動物園の経営が厳しいことを肌で感じているよ。だって、僕たちを見学する人が段々少なくなっているんだもん。
 僕たちも多くの人たちがこの動物園に来てほしいさ。そのためだったら頑張るよ、皆と相談する」
「うれしいね。園長に聞かせてあげたいよ。ありがとう」
 
 それから三カ月が経った冬も終わりの頃、見学者の前をペンギン達が行儀よく一列に並び歩き出した。
 ペンギンの愛くるしさに入園者は大喜びであった。熊雄と八重は手を取り合って喜んだ。大成功だ。
 このように、様々な工夫によって、益々入園者数が右肩上がりに増加していった。

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