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【連載】還らざるOB(2)

 この連中の中心的存在は、昔その会社を辞めて独立し、自分の会社を持った野森という男である。

 またこの中で一番出世は佐枝である。その会社の千葉支店長として最近まで活躍した。六十歳を過ぎて嘱託としてその支店に残った。

 ほかに、いまだ、その会社の城西営業所で管理外注として働いていた新賀や、六十歳で早々と仕事を切り上げ、今は悠悠自適な生活を送っていた田川、野森と同じ頃にその会社を辞めカンボジアで建築関係の仕事をやっていた信木。

 定年前にその会社から大手スーパーの建築関連子会社に再就職した中田。

 いまだ独身で、仕事も辞め、すでに六十歳を過ぎ、毎日ジョギングと美味い酒を求めさすらう小平。

 その会社の関連子会社に転職し、その後嘱託で働いていた羽田。

 以上八名である。

 いままで国内の様々な処へ旅行したが、ことごとく野森の段取りであった。他の七名は、ああしたい、こうしたいとは言うが、自分からすすんで段取りをしたためしがない。
 会社の組織でこのような唯我独尊の輩ばかりであれば、とっくの昔にその会社は倒産の憂き目にあっているだろう。
 皆は、野森の存在を認め、また頼りにもしているのだった。ばらばらな集団の中を纏めることができる人材はそう簡単には見つからない。

 野森は、北九州のとある町で生まれ育った。両親は教育者で、子供の躾には殊のほか厳しかった。彼は小さいころから日本人離れした風貌であった。
 その風貌を彼は愛した。自分は良い男だと自負していた。勉強はできた。
 両親の厳しさに耐えかねて、高校を卒業するや、東京に単身で出てきたのである。

 勿論その会社に入社が決まっていた。その会社は青山に在った。

  桜の時期になると、近くの青山霊園で仕事終わりに会社の有志で花見をした。

 段取りはすべて、野森のいる部署の段取りであった。仕事で使っているサーチライトを桜の木の上方に向け夜桜見物をするのだった。
 酒瓶を何本も準備して、酩酊して墓地の隅々まで聞こえるような大声で歌う。
 墓の中に入っている過去の人たちは、一様に驚いて、一緒に騒いでいたことだろう。

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