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襟裳の風#13

  父は、酒が強い体質ではありませんでしたが、若い頃はそれでもニシン場で茶碗酒をあおっていたらしいです。
 テレビもない時代、父の楽しみは自転車の後ろへ私を乗せて黄金道路を走り、庶野の飲み屋にいくことでした。
 帰りは酔っ払い運転で、ふらつきながら自分を乗せて帰ってきます。
 右に倒れれば三〇メートル下の崖下に落ちて、大変な状況になる訳ですが、上手に左に倒れその都度自分がワーと泣くのです。
 また起き上がっては自転車を漕ぐ。よくも道路下に転落しなかったものです。

  父の母親は、庶野の入口に住んでいました。
 若い時分は男勝りの性格で『ツナねーさん』と呼ばれ恐れられていたとのこと。そのツナばあさんの血を引く私は、意に反しておとなしい子供でした。

 そういえば、小学校の入学前の面接で担任の上村先生と面談したとき、先生から「君の知っている歌を歌ってください」といわれ、いつも父が蓄音機で聞いていた三波春夫の『船方さんよ』を歌ったのです。
 先生は、「小学校に入学したら、この歌は歌わないようにね」と一言。先生は驚いたらしい。私は、歌と言えば演歌しか知りませんでした。

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