窓越しの恋?
*本エッセイは2023年初秋に書き綴った作品です。
私が住んでいるマンションの専用庭には、様々な動物がやってくる。一階の角部屋に住んでいる者として、それらの動物を眺めるのが心の癒しになっている。
ある休日の昼間、その専用庭(庭といえるかどうかはなはだ疑問ではあるが)に出て雑草取りやメダカの水替えなどの作業をしていると、三軒先のお宅の庭から、一匹のワンちゃんがリールを引きずりながら私の方にかけてくるではないか。
私は驚き、そのリールを掴み、そのお宅に連れ戻そうととしたが、そのワンちゃんが必死の抵抗をみせ、私の家の隣のベランダに駆け込んだ。
私の力よりも強く引っ張る。それほど大きな犬ではない。短足で胴が少々長く、耳が垂れ、毛色は茶、太っているが可愛い。お腹周りが膨らんでパンパンなのだ。
ベランダに駆け込んだワンちゃんは、その後どうしたかと言うと、ベランダのサッシ越しの部屋の中にいる猫ちゃんと何やら話し込んでいるようにも見えた。私はただ茫然とその情景を眺めていた。
マンションのお隣さんは猫が殊のほか好きなようだ。
そのワンちゃんの一連の動きを反復すると、あることに気付いた。それは、今回初めてではないぞ、ということ。何回もそのようなことがあるのではないか。
ワンちゃんはあるとき、隣のお宅に猫がいることを知ったのだ。そしてその猫に会いたい一心でリールを引きずりながらやってくるようだ。しかし、その予想は見事に外れた。マンションでは許されないことだが、隣の住人が野良猫相手に、ベランダにキャットフードを茶碗に入れていたのだ。その餌を目掛けてリールを引きずって突進してきたのだ。お隣さんは、そのこと以来、その茶碗を撤去したようだ。
ここのマンションでは小動物を飼うことは許されている。ベランダに出していたそのワンちゃんが、どういう方法で杭からそのリールを外したか(外れたか)確認していない私は、無理やりリールを引っ張って引き戻そうとしたが、一向にぐいぐいと前へ進む。すると三軒先のその家の奥様が走ってこられ、「申し訳ありませ」と言うではないか。咄嗟の事でちゃんと繋いでおいてね、と言うことが出来なかった。
私は家に入り妻に、その出来事を話すと、「その奥さんに注意したよね」と聞いてきたので「うん」と応えた。実は何も注意していなかったのだ。
妻は私の嘘が態度で分かったのかどうか。「あ、そう」とそっけない仕草をした。多分本当のことを言ってはいないと感じ取ったのだろう。その話題はそれで終わった。
そのワンちゃんの小太りは、私に似ているなと感心した。
私もその犬に劣らず太っている。なにか私自身を見つめているようなひと時であった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?