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真珠のネックレス

精神病を患っている。
1年半、障害者作業所に通っていた。
B型作業所ではあるけれど、かなり高度な技術も教えてもらえるところだった。
メイン商品は、本真珠のネックレス。
オールノットという技法で真珠を組み上げていき、ネックレスに仕上げる。

オールノットをマスターするのに、わたしは1ヶ月弱かかった。
それでも早いほうだと言われた。
わたしはオールノットに夢中になった。
少しでもていねいなものを、少しでも早く作り上げたい。
そして、勉強のため、ということもあり、作業所から、自作の本真珠のネックレスを1本買い上げた。
値段は15,000円。
宝石店で買うと、10万円を越える価値がある、と聞いている。

わたしが買い上げた本真珠のネックレスは、日本で養殖した真珠が使われていて、うっすらピンク色をしている。
海外の養殖の真珠は、海の水がぬるいため、ピンク色のものはないそうだ。
このピンク色の真珠のネックレスは、着けていると、よく褒めてもらえる。

作業所は、退所することになったけど、買い上げた本真珠のネックレスを大切にしよう。
高価なものだから、というだけではない。
このネックレスには、たくさんの思い出が詰まっているから。
技術の習得に夢中になった日々。
ちっともうまくならなくて、疲れ果てた日。
とても難しいところを、スムーズにクリアできるようになったことに、はしゃいだ日。
周りの利用者さんたちに囲まれて
「とりこさん、すごいね」
と褒めてもらって、嬉しかった日。
それを忘れてしまってはいけないから。

今回の退所は、ステップアップのための退所だ。
わたしは次の段階にチャレンジする。
楽しかった思い出を胸に、前を向いていこう。

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