見出し画像

流れ星の向こう 1話

 これは、ある少年少女たちが繰り広げた夢と希望の物語である。

「リナ、おはよう」
「おはよう」
 リナはルームメイトに挨拶を返し、眠い目を擦りながら、食卓へ向かう。
 ここは、アルカッタ修道院の中にある孤児院である。孤児たちはシスターたちに世話をしてもらいながら、育っている。
 アルカッタ修道院は金銭的にも余裕があり、孤児たちも良い生活を送っているのだが…
「レポルト、行儀良くなさい!」
 バチンッという音が広間に鳴り響いた。
「食べ物で遊ぶなんて、それを作り出している神への冒涜です!さあ、神へ赦しを乞うのです!」
 レポルトと呼ばれた少年は、シスターによって、半ば強引に顔を床に押し付けられる。
「お許しください、神様‼︎さあ、後に続いて!」
「お許しください、神様」
「もっと大きな声で、心から!」
「お許しください、神様‼︎」
 レポルトが泣き叫ぶようにそう言うと、シスターはにっこりと笑って、こう言った。
「きっと、神は許してくれるはずです」
 シスターは何もなかったかのように、その場を去っていった。
 そこに取り残されたレポルトだけが、いつまでも床に顔を押し当てて、泣いていたのだった。
 

「ねえ、リナ。レポルトって馬鹿だと思わない?食事中にふざけるだなんて…」
「噂話が好きなあなたも大概だと思うけれど」
 リナは冷たく言い放って、その場を後にする。
 話を遮られた少女は頬を膨らませ、プイッとそっぽを向いた。
 リナとこの少女、エスティアはルームメイトであったが、人と関わることが嫌いなリナにとって、何かと言っては干渉して来るエスティアの存在は、厄介なものであった。しかし、どんなに冷たくあしらっても、なかなかエスティアはリナのもとから離れようとしない。それどころか、余計に懐かれてしまっていた。
「レポルト、ね」
 リナはエスティアの話で心の奥底で引っかかっている〝あること〟を思い出し、その名を口にする。
 レポルトは孤児たちの中でも特に頭の良い少年なのだが、度々こうした問題行動を起こす、シスターたちにとって〝困った存在〟なのである。
 しかし、リナが引っかかっているのは先程のレポルトの目なのである。
 リナが泣いているレポルトのそばを通りかかった時、彼は一瞬こっちを見て、何も言わずに顔を元に戻したのである。その時の目が彼女の心に衝撃を与えたのだ。いつも冷めきっているリナの心に。
 憎しみや悔しさや怒り…いくつもの感情が入り乱れた奥底に、小さな強い光が宿っていたのである。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?