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法人税シリーズ〜役員報酬の適性額②〜

前回は非常勤役員に対する報酬額について争われた事案をご紹介しましたが、今回は、常勤役員に対する役員報酬の適性額について争われた事例を取り上げてみます。


大分地裁平成20年12月1日 判決

1.事案の概要
 コンクリート製品製造業等を営む同族会社Xの代表者Aへ支給した役員報酬の一部が不相当に高額であるとして更正処分された事案。
          H12.3期  H13.3期   H14.3期    H15.3 期
Xの売上       8.8億   9.1億    8.6億      6.5億
Xの粗利       2.9億   3.1億    2.6億      1.9億
従業員一人あたり給与 307万  289万    284万      301万
A報酬額       月130万 月130万   月150万     月200万
Aの病状      H12.1肺がん      H14.3大腸がん   H14.8
          で入院         で入院       死亡
Aの職務内容   営業担当の従業員から報告を受けて指示を出すほか、自らも業
          者に対する営業活動や得意先との折衝をするなど営業を中心に
                               仕事を行うと共にXの代表として経営全般を取り仕切り、重要事
          項の決裁をするなどもしていたが、H12年1月以降、がんによ
          る闘病及び入院しての職務遂であったため、従前より職務従事
           度は減少していた。
2.裁判所の判断
 ①Aは闘病及び入院により職務内容が減少していたと認められ、その間業績が上
  昇する等の特段の事情がない限り、入院以降に役員報酬額が上昇する合理的な
  根拠は認め難い
ところ、売上、粗利は減少傾向であるため特段の事情は認めら
  れない。
 ②使用人に対する給料の支給状況及び使用人最高給与額はいずれもほぼ横ばいで
  あったことに照らしてみても、役員報酬額を上昇させる合理的な根拠はないと
  いわざるを得ない。
 ③①、②に加え、同種同規模法人の比準報酬月額が123万円程に過ぎないため、
  H13.3時点の月額130万がAの役員給与の適性額と認めることが相当。


 役員報酬の適性額の判断要素としては法人税法施行令70条で「❶役員の職務の内容❷その法人の収益❸その使用人に対する給与の支給状況❹同種の事業かつ事業規模が類似する法人の役員に対する給与の支給の状況等」が規定されています。

 今回の裁判所の判断によると、❷については業績が向上(ここでは売上と粗利)することは役員報酬の上昇理由となる、❸については一般の従業員への給与支給額が伸びていることは役員報酬の上昇理由となる、という要素が読み取れます。

 この考え方は、実際に役員報酬を上げる際の一つの大きな目安になるので気にかけておく必要があります。もっとも、❹の同種同規模法人の役員報酬支給状況からして、そもそも変更前の役員報酬の月額が少ないようであれば適性額に戻すという意味での増額の余地もあるでしょうが、この同種同規模法人の役員報酬支給状況は税務署でなければ正確な情報を知ることができないため、ここを頼りにすることは現実的には難しいです。ただし、他の裁判において最高裁が「民間給与実態統計調査の給与支給額」や「法人企業統計年報特集」等もこの比較対象の情報になりうると言っいる(内容が乏しすぎますが・・・笑)のでこれら統計の数値も会社の業績等と併せて参考にして適正な役員報酬を決めていくことが良いのではないかと思います。

 いずれにしても、社長の独断で「俺の会社なんだから俺が欲しい金額を役員報酬にするんだ!」という決め方をすることは非常にリスクのある決め方なので、くれぐれもお気をつけいただき、このような裁判例等を理解した税理士と相談しながら決めていくことをお勧めします。

最後まで読んでいただきありがとうございました^ ^


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