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法人税シリーズ〜役員報酬の適性額①〜

今回から2〜3回にわたり、役員報酬の適正額が争われた裁判例、裁決事例をご紹介したいと思います。 
 この役員報酬の適性額については税務調査においてもしばしば争いが生じる分野で、適性額を超える金額を支給していた場合にはその超える部分が損金(経費)にならないこととなり、更に後に支給する役員退職金の適性額にも影響が生じるため、非常に重要な点です。

何故役員報酬に税務署が口出しする?

 そもそも、「役員報酬の金額について税務署が口出ししてくるという構造が意味不明」と思う方もいるのではないかと思います。
 私も初めて法人税法を勉強した時に「会社が稼いだお金をどう使おうと会社の勝手だろ!」と思いましたが、そこは「課税の公平」という観点すなわち、「日本で商売をする以上、同じ金額の儲けがあればそれに対して皆同じように税金を納めましょう」という制約があり、役員報酬は会社の”儲け”を簡単に上下させることができる要素なので、不相当に高額な給与は損金に算入できないという決まりができています。

いくらが適性額??

 では、その適性額というのはいったいいくらなのでしょうか?
 この点、法律や通達で「売上の○%」「所得の○%」といったような明確な基準はなく、法人税法34条で「不相当に高額な部分の金額は損金算入しない」と規定し、同政令でこの判断基準として「役員の職務内容・その法人の収益、使用人に対する給与の支給状況、同種の事業を営む同規模法人の役員報酬の支給状況に照らして判断する」と規定されています。
 したがって、この適正額を検討するにはいくつもの裁判例等にあたって、判断過程等からその要素を掴んでいく必要があります。
 今回はまず、分かりやすいかつ税務調査でも一番指摘がされやすい「非常勤役員」に対する役員報酬が争われた裁決事例をご紹介します。


審判所平成9年9月29日 裁決

1.事案の概要
 パチンコホールを営む同族会社が以下の非常勤役員3名(いずれも業務執行権なし)に支給した役員報酬のうち、相当額(国税認定額)を超える部分が損金算入されないとして争われた事案。
 役員  関係性    役員報酬額   国税認定額     業務内容
 H   取締役妻 H4 7,140千円  1,320千円  社員総会・取締役会に出席
         H5 9,340千円    1,500千円  する程度。(会社の銀行借
         H6 9,540千円  1,920千円  入に個人資産を担保提供)

 J    代表者妻 H4 3,264千円  1,320千円  社員総会・取締役会に出席
         H5 6,564千円  1,500千円  する程度。(近隣のパチン
         H6 6,864千円  1,920千円  コ店に精通し従業員から相
                         談を受ける)
 K  元取締役妻 H4 4,080千円  1,320千円  社員総会・取締役会に出席
         H5 7,380千円  1,500千円  する程度。
         H6 7,680千円  1,920千円
2.審判所の判断
  以下の①〜③の理由からH、J、Kは会社の経営に深くかかわるようなものとは
 考えられず、類似法人の非常勤役員に対する平均報酬支給額を超える部分は不相
 当に過大な部分のため損金の額に算入しない。 
  ①それぞれ以下の理由から職務執行の事実が認められないこと
   H 会社の銀行借入金の担保に個人資産を提供し、資金の運営に深く関与し
     ているとの主張があるが、それを裏付ける事実はなく(仮にあったとし
     ても担保提供は役員の職務執行ではない)その他職務執行に関する主張
     がない。
   J 近隣のパチンコ店の状況に精通し、従業員から相談を受ける機会も多
     く、会社の経営に関し助言をしているとの関係人の答述があるが、これ
     らの事実を裏付ける証拠がない。
   K  職務執行に関して何ら主張がない。
  ②各役員の役員報酬支給額は共同代表者2人がそれぞれ決めていて、H、J、K
   は関与していないこと
  ③役員就任の経緯が以下のとおりであること
   H及びJ  会社の創業当時から苦労をかけていたことから、会社が収益を上
        げられるようになったことを機に役員に就任してもらった。
   K    会社の取締役であったKの夫が死亡した時に退職金を支払うこと
        ができなかったため、退職金の代わりに報酬を支払うために取締
        役に就任してもらった。

   ※審判所が認めた各年の役員報酬相当額(全員同じ)
    H4 1,220千円 
    H5 1,160千円
    H6 1,800千円  


 今回の事案は、「役員の配偶者が非常勤役員となり具体的な役員としての職務の執行は行なっていない」という同族会社では非常にありがちなパターンです。
 ご覧いただいてお分かりのとおり、判断要素としては”役員としての職務をどれだけ行なっていたか”が最も重要な点で、審判所の判断①、②がこの部分を直接的に判断した理由、③がこれらを間接的に補完する事実といったところでしょう。

 この事例からざっくり適正額の目安を抽出するのであれば、「役員として総会に出席する程度の仕事であれば月10万円くらいが限界」ということができるのではないかと思います。

 もっとも、この適正額は審判所認定額をご覧いただくとお分かりのとおり、年によって金額が違います。これは、今回であれば「各年の原告会社の所轄及び近隣税務署に所在する同種同規模法人の同様の職務(取締役会への出席程度)を行なっている非常勤役員に対する役員報酬支給額平均」をもって算出していることから、年ごとにばらつきがあるためです。

 そして、平均値をとる対象が「近隣の同種同規模法人」であることから、地域によってその額に幅があるため、あくまで参考値とはなってしまいます。

 ただし、国税局時代に見てきた数多くの同族会社の非常勤役員に対する報酬額と照らしてみても概ねこの辺りの金額が妥当な感覚はありますので、私は一つの目安の金額と考えています。

 ちなみに、この金額について個人事業で青色事業専従者給与を支払っている方が見たら、「何で総会に出る程度のことしかしないでこれだけ多くの給与が認められるんだ!?」と驚かれるかと思います。
 ここも法人を設立する利点の一つで、役員は従業員の雇用関係とは異なり会社との委任契約に基づいていることから、その対価性の考え方が異なるためなのですが、この点はまた別の回で取り上げてみたいと思いますので詳細は割愛させていただきます。

 
 次回は常勤役員の過大報酬額に関する争いを取り上げますのでまたご覧いただければと思います。


 最後まで読んでいただきありがとうございました^ ^

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