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不動産売買の適正な時価②〜個人から法人への売却〜

 今回は、これまで2回にわたり掲載した「個人から法人へ不動産を売却する際の留意点」の第3回目です。


審判所平成16年3月8日 裁決

1.事案の概要

※補足
A等は相続によって本件市街化調整区域内の土地を取得したが、将来の値上がりが見込めず売却も困難であると思われていた中で、資材置き場の貸付先であるX(株)(純然な第三者)に買取を強く申し入れたところ、700万円(算定根拠はなくX(株)が払える金額で決定)で購入してくれるという話になり、満足して売却したという経緯がある。

2.審判所の判断
 ①低額譲渡の特例の趣旨は関係者が恣意的に利益を得ることを防止することにあ
  るのではないため、譲渡対価が時価の1/2未満か否かで課税すべきか判断す
  べき
 ②課税庁が時価算定の根拠とした近隣売買実例の正当性
  土地の時価については一般的に、当該物件の取引に関して、時間的、場所的同
  一性及び物件的、用途的同一性の点で可及的に類似する物件の取引事例に依拠
  し、それを比準して算定するのが最も合理的で、相当な方法であると解され、
  課税庁が採用した売買実例はいずれもその要素を満たしかつ、時点の相違、
  画地条件の格差及び地域要因の格差を考慮の上価額を算出しているから、この
  算定方法が相当と認められる。
 ③課税庁が時価算定の根拠とした鑑定評価の正当性
  客観的な交換価値を示す価額を算定するに当たって、不動産鑑定士による鑑定
  評価額も、合理的なものの一つであると解され、本件鑑定評価については取引
  事例比較法による価格を試算するために採用された取引事例や公示価格等を規
  準とした価格を試算するために採用された公示地を選択し、また、これらに係
  る事情補正、時点修正、建付減価補正、標準化補正及び地域要因格差の比較に
  ついても、角地であるか否か、街路条件、交通・接近条件及び環境条件等の比
  較が的確にされており、当審判所が調査したところによっても、その鑑定方法
  は相当であると認められる
 ④賃貸借契約があることによる土地の減価について
  賃料総額が固定資産税額とほぼ同額であり、土地上に存する建物はプレハブ小
  屋かつ未登記であるため借主のX(株)が借地権を有していたとは認められな
  いため借地権による土地の減価は認められない。


第三者間売買でも時価は要チェック

この裁決事例から得られる参考となる要素としてはまず、①で記した低額譲渡課税の趣旨が「恣意的に課税を逃れようとしたか否かは無関係」ということです。
 個人が時価の1/2未満で土地建物を譲渡した場合に時価で課税されるというのは一見こうした課税逃れの防止のようにも見えますが、あくまで譲渡所得の趣旨そのもの(詳細は冒頭のリンク「個人から法人へ不動産を売却する際の留意点」をご覧ください)であるということです。
 したがって、今回のケースのように純粋な第三者間取引であっても思わぬ課税リスクが潜んでいるということはまず十分に留意しておくべき事項です。
 ちなみに、私は3年ほど大手不動産売買仲介会社で売買仲介営業をしていましたが、この点は私も含め誰も認識していなかった(社内のチェックリストにもその項目がない)と思います。。。

不動産鑑定評価の使いどきは・・?


 続いて具体的な評価方法である②、③について、評価において重要な要素として「時間的、場所的同一性及び物件的、用途的同一性の点で可及的に類似する物件の取引事例を用いて、これを比準して算定するのが最も合理的」ということ示しています。
  そう言われても土地のような唯一無二の物についてこうした条件の事例を素人が選ぶことはなかな難しいところではあるので厳密にこれに基づいて価格を算定するのであれば不動産鑑定士へ鑑定評価を依頼することが無難な選択とはなりますが、不動産鑑定評価であっても過去の裁判例等を見ると事情補正等が不十分で合理的でないという判断が下されてその価格が採用されなかった場合もある(昭和45年10月17日裁決等)ため、税務訴訟に耐えうる評価を出すことに長けている不動産鑑定士を選ぶ必要があります。
 
 ただし、不動産鑑定評価にかかる費用は数十万から数百万と、決して安くはないため、依頼するのはケースバイケースになるかと思いますので、鑑定評価を依頼しない場合においては少なくとも不動産会社に売却時に行う査定をしてもらうことでも簡易的にその時価の目安を把握することはできます。

 というのも、不動産会社が行う査定も、基本的には周辺の売買事例を抽出したうえで、地型や駅までの距離、道路付け、用途地域、建蔽・容積率等の様々な要素を評点化して価格の補正を行うので、精度の粗さはあるものの不動産鑑定評価や、今回の事例で課税庁が行った周辺取引事例からの時価の算定方法とも通じる方法です。

 もっとも、今回の裁決事例のような市街化調整区域の事業用土地というような類似の事例が少ない物件の場合には、どのような比較対象物件を抽出するかという点がかなり大きなポイントになるかと思いますので、不動産鑑定評価を前提に動いた方が無難な選択かと思います。


最後まで読んでいただきありがとうございました^ ^

 



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