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個人から法人へ不動産を売却する際の留意点

 今日は”個人が所有する不動産を法人へ売却する場合の適性額がいくらか”について取り上げたいと思います。
 
 これは、個人で不動産賃貸業を行なっている方で自己が経営する法人で賃貸業を行おうとする場合や、相続対策で自己所有不動産を資産管理会社へ移転する場合等、感覚的には自己コミュニティー内で完結する単なる名義変更だけれども、第三者間の売買と同様に考えなければ思わぬ課税をされてしまう危険性があるため留意しておくべき重要なテーマです。 

基本的な課税パターン

 まず、個人から法人へ不動産を売却した場合、売却した個人がその売却益(譲渡金額−譲渡原価)に対して20.315%または39.63%課税される仕組みとなっています。

 そして、第三者間で不動産の売買が行われる場合には、売り急ぎの場合等例外的なパターンを除き、市場では需要と供給の関係から基本的には適正な時価で売買が行われる仕組みになっているため、実際の売買価格を元に計算した売却益に対して課税をすることで適正な課税がされることとなります。

 ところが、売主が自分で買主が自分が支配している会社の場合だとその売買価格を決めるのはどちらも同一人物であることから市場の原理が働かず、うまく課税を逃れるために自由に売買価格を決めることができてしまいます。

 そこで、税法ではこのようなパターンの対策として、”みなし課税”という規定を設けています。

時価で譲渡したものとみなす!?

 個人間の売買のパターンは次回触れるので割愛しますが、個人から法人への売却価額が時価の1/2未満である場合には、時価で譲渡したものとみなされてしまいます。
 以下4,000万円で購入した時価1億円の土地を4000万円で個人から法人へ売却した場合の例をご覧ください。
 
            売却額  取得価額  譲渡益         所得税額
①実際の取引対価    (4千万円−4千万円)=  0 ×20.315%=      0円 

②みなし譲渡課税   (1億− 4千万円)  =6千万円×20.315%=1.2千万円

 「個人で税金を払いたくないから法人に安く売って法人で適正価格で第三者へ売却することで所得税を0にしよう」と考えて、上記①のとおり取引をしたとしても、所得税の計算上、②のとおり実際の時価1億円で譲渡したものとみなされるため売主である個人は1.2千万円の所得税を納付することとなります。

 ちなみに、誤って実際の取引対価で確定申告をしてもすぐに税務署が気づいて是正するよう言ってくるわけでもなく(運よく気づかれないこともありますが・・・)、提出してから2〜3年後に調査が入って修正するよう指摘されてしまうことも多々あるため、その場合は更に10%の加算税と2〜3年分の延滞税が課せられるため、更に1〜2割は税負担が増える可能性があるため、この取引を行う際は事前に税理士へ相談されることをお勧めします。

 ちなみに”時価の1/2未満”だと時価譲渡とみなされるため、1/2以上で譲渡すれば実際の取引対価で税額計算をすることとなりますので、「ギリギリを攻めれば良いな!」と思うかもしれませんが、買主の法人側では時価と実際の取引対価との差額が受増益として法人税の課税対象とされる他、自己が支配する法人への譲渡であれば「同族会社の行為計算否認」という同族会社との不合理な取引を否認する規定に基づき課税される可能性もあるため、取引対価は全体のバランスを見て検討することとなります。

何故時価譲渡とみなされてしまう・・・??

 ちなみに、何故実際に1億円をもらっていないのに1億円が収入金額として課税されるのかというと、所得税法における譲渡所得の課税の趣旨が、「資産の譲渡によっていくらお金が動いたか」ではなく、「資産の値上がり益」に対する課税だからです。
 いまいちピンとこないかと思いますが、理屈としては「本来取得した資産が値上がりする都度、毎年確定申告をして税金を支払うべきであるところ、煩雑さもあるから手放した時にまとめて課税しましょう」という考えなので、売却によっていくらお金が動いたかとは切り離して考えられるということです。

時価はいくらにすればいい??

 ではいったい時価はどうやって算定すれば良いのでしょうか?
 裁判や裁決で採用されている時価としては、不動産鑑定評価に基づいて算出した価額や固定資産税評価額、近隣の売買事例や公示地価との比較で算出した価額等その物件の売却時における状況によって都度適正な時価の求め方が変わってきます。

 ということで、何をもって適正な時価とすべきかは、いくつもの個別事例にあたって、その考え方の目安を探っていくしかないということとなりますので、次回以降「不動産譲渡の適正な時価」について争われた裁判例等をご紹介していきたいと思います。


 最後まで読んでいただきありがとうございまいた^ ^

 

 

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